わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
電話の向こうは山崎深湖なんだろう。若い女性の声で『来月結婚式と聞きました。晴れ姿を見せたいですよね?』などと言うから、さっきグラバー園でぶっちぶちになってた私の堪忍袋の緒は木っ端微塵になったと思う。
「伝えてください、お父様には二つの事を感謝しています。宮燈さんに素敵な名前をくださった事と、命をくださった事です。お父様がいなければ、私は宮燈さんに会えませんでした。でもねえ、その二つだけです! 何十年も放っておいたくせに今更どうして都合のいいことを言ってるんですか? 結婚式が見たい? 育てる苦労もしてないくせに良いとこ取りしたいんですか? そんな権利はありません! 私達の邪魔をしないでくださいねっ!!」
一気にしゃべって電源ボタンで通話を切って、勢い余って腕を振ってスマホをソファに向かって投げ飛ばした。ごつっと鈍い音がして、端末は絨毯の上に落ちた。
……しまった……心の声が駄々洩れ……というか、ぶちまけてしまった。
「あ、すみません……勝手に切っちゃいました。あとうっかり投げました、ごめんなさい」
私がそう言ったら森羅さんが笑い出した。宮燈さんはちょっと驚いた表情をしていたけど、しばらくして目を伏せていた。あれは多分、笑いを堪えている。めちゃくちゃ恥ずかしい……。