わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
宮燈さんは浅く息をしながら、しばらく私の肩にもたれていた。私は「うー……激しいー……宮燈さんのばかー……」と文句を言いながら夫の背中をずっとぽこぽこ叩いていた。顔を上げた宮燈さんが言う。
「まだそんなに酷くしてない」
「まだ? まだってどういうことですか?」
怯えつつ私がそう問うと、宮燈さんはとても綺麗な顔で淫靡に笑う。
「もう二度と私から逃げようなんて思わないようにする」
「なにその不穏当な発言! あれは宮燈さんがっ……あ……」
腕を宮燈さんの首に回した姿勢のまま抱き起こされたから、額がくっつく距離で夫の綺麗な顔を見てしまった。え、美人……好き、めちゃくちゃにされたい……ってまた、絆されそうになってしまった。あぶなーい。
体を離そうとしたけど、逆に腰を引き寄せられて胸が触れた。肌が擦れて気持ちよくて喘いだから、また宮燈さんが笑っている。部屋は暗いけど至近距離だから、長い睫毛とか通った鼻筋とか、笑っててえっちな口元がはっきり見えてドキドキした。
「確かに逃げましたけど、それは宮燈さんのせいじゃないですか!」
「私はずっと嘘はついていなかったが?」
「う、嘘は……ついて……なかったですね、はい」
そういえばそうだった。秘密保持契約に触れる部分は言えなかっただけで、他の質問には答えてくれていた。「浮気は事実じゃない」という言葉を信じなかったのは私。「好きなのは桜だけだ」と言ってくれたのに信じなかったのは私。
心を、見えないものを信じきれなかったのは私の方だった。