わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
なんだかちょっと意外な気がしたから、私は黙った。お料理好きじゃないのに、上手なんだ。変なことではないかもしれないけど違和感があるなあと思ったから、私は宮燈さんの所まで這って行って聞いた。
「何か辛いですか? 昨日も言いましたけど、辛いなら分かち合いたいです」
私の身体がベッドにゆっくりと沈んだ。押し倒されて、もう何度目かわからないキスをして、またシーツが乱れていく。喘ぐ声はもう掠れそう。それでも、求められると敏感に反応してしまうから、私は素直に愛撫を受け入れた。
「ん、……宮燈さん? どうしたんですか?」
「面白くもない話だが、君には……話してもいいのかなと思う」
私の胸に顔を埋めてる姿は甘えてるみたいにも見える。宮燈さんは小さな声で、感情をのせずに話してくれた。
婚外子ということで同居していた祖父母や親族からは蔑まれて、料亭の隅で下働きをさせられていたから料理を覚えた事。小学校から帰るとすぐに手伝いをさせられていたから、ほとんど勉強が出来なかった事。でも従業員さんたちは同情的で優しくしてもらったから辛くはなかった事。
「母親の再婚でやっとそこから抜け出せたと思っていたら、新しい家族にも受け入れてもらえず、父が帰宅して母が母屋に呼ばれた日は、一人で作って食べることも多かった。だから、別に私は料理が好きなわけでないんだ……」
辛くなかったわけがない。
自分のせいじゃないのに。