わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

01. 橘部長と春の始まり

 二月、私はもうすぐ引き払うアパートで、これでもかとバックパックにトイレットペーパーを詰め込んでいた。結婚式が終わったら、私は念願のインド一人旅に出かける。二週間で北インドの主要都市を巡るつもりなので、結構タイトなスケジュール。
 まず、香港経由でニューデリーへ行き、空路でコルカタへ。それから列車に乗って陸路でニューデリーへ戻る。

 相変わらず消音でつけっぱなしにしているテレビは夕方のニュースを流していたが、「俳優 山崎雄輔が死去」のテロップが出たから思わず手が止まってしまった。

 ステージIVのがんを患って、十二月には心筋梗塞を併発し、ずっと入院していたことを初めて知った。森羅さんが「父はもうほとんど口がきけない」と言っていたが、本当にそうだったんだろう。お父さんが大好きな娘から見たら、明らかに死期が近づいている父親に何かしてあげたくなったのも少しはわかる気がした。それと宮燈さんの気持ちを無視した行動は全く別問題だけれど。

 映画のワンシーンなのか、いまテレビ画面に映っている斜に構えたような若い頃の写真を見ると、確かに宮燈さんにどことなく似ている。勿論私は、この人に直接会ったことも話したこともないけれど、テレビで見たこともあるし、家族を知っている。だから他人の私でさえ胸が痛い。

 私は宮燈さんに「会いたくなったから東京に行きますね! 品川駅に九時過ぎに着きまーす!」と連絡して、返事も待たずに新幹線に飛び乗った。
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