わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 家に着いて、どーんと建ってる恵比寿ガーデンプレイスタワーを窓から見ながら「やっぱり京都とは、空の広さが違いますねえ……人多すぎ、こわ」と呟いたけど、宮燈さんは返事をしてくれなかった。無言でくっついてるから、私は宮燈さんをひきずって窓際からソファに移動して、新幹線の中で考えた、北インド旅行の旅程について話した。

「ヴァラナシに長めに滞在したいけど、タージマハルのあるアーグラーはやっぱり外せないし、でもジャイプールにも行っときたいんです!」

 私が『地球の歩き方』片手に説明していると、ようやく「……気を付けて。夜は絶対に出歩かないように」と口を開いた。 
 あ、しゃべった、生きてた、良かった。


 その夜は何もせず、手を繋いで二人で眠った。
 でも、明け方に起きた私は、目を閉じてる宮燈さんが私の髪を撫でているのに気づいたから、この人は多分寝なかったんだろうなと思った。宮燈さんは「有り体に言えば憎んでいる」と言った。でも、もうその感情をぶつける対象がいなくなってしまった。行き場をなくした感情は自分で消化するしかない。側にいる事しか出来ないのがもどかしい。
 寝たふりしたまま、もそもそと体をくっつけたらとっても気持ちいい。髪だけじゃなくて何かあちこち触り始めてた気がするけど、いつものことだし夫だからまあいっかーと、気にせずもう一度寝た。


 翌朝、私が朝食の準備をしていると、また宮燈さんが無言で抱き締めてくる。見上げたら、感情が全く読めないくらいに表情を消していた。何となく放っておけなくて、引越準備も兼ねて、そのまま私はしばらく東京で暮らすことにした。

「行ってらっしゃい」

 そう言って頬にちゅーしながら「なんか新婚さんみたいですね!」とはしゃいだら、宮燈さんが「新婚……なのはその通りかもしれない」と言って少しだけ笑う。
 あ、笑った、良かった。好き。
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