わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 え、なんで? と思って立ちつくして茫然と見ていた。
 平日の昼下がり。普通なら勤務時間中でしょ?
 かなり長いこと振動してたから、留守電に切り替わる。切られる! と思って慌てて通話にした。

「ここここんにちは!」
『……よかった。出てくれないのかと思った』
「どうしたんですか?」

 電話越しに話すのは初めてで、何だか落ち着かない。当たり前だけど、耳元に橘部長の声が聞こえてきて、私は耳朶が熱くなって緊張し始めていた。

『突然ですまないが、これから人を寄越すので今いる場所を教えて欲しい』
「大学、文学部の前にいますけど……一体何の用事ですか? 誰が来るんですか?」
『大学職員が来る。少し君に説明したいことがあるので』
「構いませんけど、何なんですか? まさか内々定取り消しとかじゃないですよね?!」

 私は最悪の想像をしたが、橘部長はすぐに否定した。

『そうではない。君の食生活についてだ』
「ますます訳がわからないんですけど」
『年度の途中だが、使えるようにしたので、大学生協の食堂で食事をして欲しい。離れていては、それくらいしか君にしてやれない』
「……はい?」

 年度の途中で使えるようにした? 食事をして欲しい?

「まさか……昨日話したミールシステムの件ですか……?」
『そうだ。詳しくは私の知人が直接説明するから』


 知人というか、その人はきっと橘部長の手先だ。情報漏洩したのも、今からくる人に違いない。そう思って電話を切って身構えていたら、人の好さそうな初老の男性に声をかけられた。

「清川桜さんかいな?」

 キレッキレのヤクザみたいな男の人がくるんじゃないかって想像していたから、びっくりした。
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