わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
その男性は「おやおや、えらい可愛い婚約者はんや」と言いながら笑っている。私と同じくらい小柄な人だった。首から下げているネームプレートは見えないように胸ポケットに入れてある。名前を知りたいと思ったが、知ったところでどうにも出来ないので聞かない事にした。
その人は名乗ることなく、私に新しい学生証を手渡してきた。
「もう今日からフルサポートプラン使えんで。システムの説明はいらへんよなあ。今の学生証は紛失したことになってるさかい預かるで」
「え? いきなり使えるんですか? 仮カードとかでなく?」
「そや。勿論、通常の手続きを踏んでへんさかい、他の人には内密にしてや」
それだけ言って、にこにこしながら男性は立ち去った。
本当に使えるのかな……と半信半疑だったので、生協の売店へ行き、おにぎりを購入することにした。学生証をカードリーダーにかざすと、特に問題なく使えたのでびっくりした。あんまり驚いてたので、レジのお姉さんも驚いてる私に驚いていた。そして、レシートを見て私は目を疑った。
学生証には、学食定期分とは別に、電子マネーもチャージが出来るのだが……上限額である二万円が入金されている。私はせいぜいその都度の買い物に足る金額しかチャージしてなかったのに。
二万円あればそれだけで、私は余裕で一ヶ月暮らせる。
私はめちゃくちゃにビビった。そして売店を出てすぐに橘部長に電話をした。
「橘部長!!!」
『……電話であまり大きな声を出さないで欲しい』
「なんで勝手にチャージされてるんですか? これって保護者しかチャージ出来ないはずでは?」
私の質問に橘部長が沈黙した。どうやら答えるつもりは無いらしい。
「どんな手を使ったのか知りませんけど、やめてください!」
『あって困るものでもないだろう』
「ただでさえ、実家が借金抱えてるのに、困ります! レシートの保管も計算も面倒なのでやめてください!!」
『……返すつもりでいるのか?』
「はあ? 当たり前じゃないですか。なんで橘部長が払うんですか」
『離れていても、生計を一にしようと思ったのだが……』
生計を……いま何つった、この人?
私は理解が遅い方ではない。
でも、この時は思考回路が停止しそうになった。