わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

11. 橘部長と再び約束する

 土日の私のスケジュールは、大抵の場合、朝から晩までアルバイトで埋まっている。

 昼休憩が、たまたま他大学二年生の佐藤夏海(なつみ)ちゃんと一緒だった。なっちゃんは今日も可愛いから、私は「いつもどこで服買ってるの?」と聞いてみた。なっちゃんが大きな目をキラキラさせて言った。

「どないしたんですか、桜さん! 彼氏が出来たんです? まさか塩見さんちゃいますよね?! あの人はあかんよ!」

「……なんで塩見さん?」

「えー、どう見ても塩見さんって桜さんを気に入ってますやん。でも、ほんまにあかんよ。金が()うなると、すぐ女に貢がせてるクズやさかい」

「うわあ。心の底から遠慮しとく」

 なっちゃんから御幸町通りのセレクトショップを何軒か教えてもらい、夜のバイトまでの時間で行ってみようかなと思っていた。

 昼は回転寿司屋でくるくる働き、夕方は病院の調理場で皿洗いをし、夜は閉店後のスーパーの清掃をして、清掃会社の社長にごはんを食べさせてもらって帰るのが日常だった。社長は若い頃に自分が苦労したから、と貧乏な私にいつもご飯を奢ってくれる。時間がない時はお弁当を買ってくれる。本当に私は、恩返ししなきゃいけない人がたくさんいる。

 くったくたになった午後十一時過ぎ、私のスマホが振動した。仕事が終わったタイミングだったから、完全に把握されてるなと思った。

『夜分にすまない』
「橘部長! うちの鍵返してください!」
『……いやだ』
「また、そういう子供みたいな事を……」
『明日は時間とれないか?』
「……明日は夜シフトなので、昼間は空いています……と言うか、多分わかった上で電話してますね?」

 プチストーカーから、ストーカーに格上げした方がいいかもしれない。いや、格下げか。
 相談したいことがあるからと言われ、ランチを一緒に食べることになった。橘部長が東京に戻る前に、多分一度連絡してくるだろうとは思っていた。

「ふふふ、お前の行動は予測済みだ! 橘宮燈! 今日買った服着て『可愛い』って言わせてやるからな!」

 そう意気込んだが、そういえば橘部長は「そのままでも可愛い」と言ってくれてたんだった。あらやだ空回り。でもいい。お洒落は自己満足だ。
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