わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

小話 清川桜を観察している

 父が副社長に任命された後、父に請われて私は長年勤めていた銀行を退職し、双葉本店の財務部グループ資金管理課長になった。
 当時三十一歳になったばかり、しかも余所者で若年の私が課長として着任した事で、周囲からの風当たりは強かった。だが、気にしていても仕方ないので淡々と仕事をこなしていった。

 前任者があまり仕事熱心ではなかったらしく、業務を改善していただけだったが、相対的に評価され、入社から二年で秘書部長に昇進した。
 古参の社員からは「金融業界にいたのだから、財務管理が出来て当たり前だろう」と、相変わらず反感を買っていたらしいが、どうでもいい。ああいう連中は、どうせ何をやっても文句を言うに違いない。


 秘書部秘書課庶務係は圧倒的に女性社員が多い。この部署が苦手だったが、同じフロアにいるのだから毎日社員と顔を合わせることになる。昔から女に言い寄られることは多かった。だが、秘書部長になってからは殊更に酷くなってうんざりした。
 自分でも冷淡だなと思う程の態度で接していたのだが、何故か近づいてくる女は後を絶たない。人事部へ異動が決まった時には、本当に安堵した。

 これまで、それなりに女性と付き合うこともあったが、「どうして笑ってくれないの?」「私の事、本当に好きなの?」と言われても困るだけだった。自分なりに好きだから付き合っていたつもりだったが、結局は「あなたには人の心が無いのね」と言い残して去っていく。何度も繰り返されて、きっと私には何かが足りないのだろうと思うようになった。

 出来るだけ女とは関わらないようにしよう。そう思って仕事を積み重ねてきたのに、予想外の場で巡り合ってしまった。
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