わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
経営戦略会議、専務が来ておらず開始が遅れていた。社長も副社長も揃っているのだからもう始めればいいのに、専務派の若い副社長が頑として「専務を待ちましょう」と言うので始まらない。時間が無駄に過ぎる。
私は無言で離席した。
会議室に細波のように動揺が広がる。私が気分を害した、そう思ったのだろう。
部屋の隅に控えている秘書連中も慌てていた。杉岡がまず社長の所へ走るのが見えた。謝罪し、私の跡を追うのだろう。このタイミングなら撒ける、そう思った。
役員面談の控え室にいくと、ちょうど清川桜の面談が終わった所のようだった。
「また会えるのを楽しみにしている」
私がそう言うと、彼女は笑った。私を見上げて、うれしそうに笑っていた。その瞬間、彼女の存在は私の中で、特別な何かに変化した。
「橘部長! 急にどっか行かないでください!」
案外早くに見つかってしまった。
もう少し会話したかったのだが。
会議室に連れ戻される。専務はまだ来ていなかったが、私が席に戻ったので、会議が始まった。
……新卒採用の役員面談の結果にまでは、さすがに口は出せない。
もちろん、人事部長という立場を使えば多少は可能だが、清川桜の採用に関しては私はどちらでもよかった。
うちに来るにしても、他に行くにしても、もう情報は手に入れているのだから。彼女がどこに行こうが追いかけるつもりだった。