わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
「はぁ……うちの、桜でいいんですか?」
父が情けない声で言う。そりゃそうだ。同じ年の彼氏~とか、バイトで知り合った先輩~とかでなく、二十一歳の長女が三十六歳の上場企業の役員をうちに連れて来たんだから。いきなり世界が違いすぎる。
しかも橘部長は、恐ろしいほど容姿端麗。無表情なだけだが、状況が状況なだけに、今は真剣な顔に見える。困惑して当然だと私は思っていた。
一生懸命働いてるアリさん家族の土くれの巣穴へ、鶴が舞い降りてきたようなものだ。働き蟻一家の清川家は茫然と鶴の姿を見上げるしかなかった。
私も聞きたい。私でいいんですか?
「桜は、親の私が言うのも手前味噌で恥ずかしいのですが、頑張り屋で親孝行な娘です。苦労ばかりさせて申し訳ないと思ってます。しかし、まだ子供で世間の事なんか何にもわかっちゃいません。だから、そのー……お偉い常務さんなんかに、はたして釣り合うのかと……」
「私が桜さんを妻に、と望んだのです」
橘部長は、無表情のまま真っ直ぐ言う。
いつもよくしゃべる明るい母が、何故かずっと黙っていた。
「桜さんが学生であることは承知しております。本分である学業は決して邪魔をしません。結婚式も卒業論文の終わった二月下旬に、と考えております。お許し頂けますか?」
「桜は?」
急に母が私の顔を見た。なんだか怖い。
「え?」
「桜は納得してるのね?」
「う、うん。勿論」
戸惑ったが頷いた。そりゃ私も半信半疑だけど、両親に挨拶までしてる橘部長をこれ以上疑うのも変だろう。
両親が顔を見合わせてから、頭を下げた。
「不束な娘ですが、よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
そう言ってる橘部長はやっぱり無表情だった。