わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
岡山駅直結のホテルにチェックインして、私はベッドに倒れこんだ。橘部長と京都駅で待ち合わせて構内で昼食をとり、二人で新幹線に乗って岡山まで帰った。グリーン車も初体験だったけど、ホテルの最上階エグゼクティブスイートに泊まるなんて事も、生まれて初めてだ。ベッドが気持ちいい~!
「ふぁーー! 自分ちなのに緊張したー!」
疲れていたから、ふかふかのベッドの上にいると眠ってしまいそう。そう思っていると、橘部長がジャケットとベストを脱ぎ、ネクタイを寛げてベッドの私を抱き締めた。
「わわ! 何ですか、急に」
「抱いていいか」
「え、だめです! お風呂入りましょうよ。夕飯もまだなのに」
「桜を抱きたい」
首にキスしながら耳元で言うから、背筋がゾクゾクした。そのまま流されそうだったけど、橘部長の体を腕で押し返して言った。
「いやです。お風呂入りましょう」
「一緒に?」
「いいいい一緒に?! その発想はなかったです。……え、夫婦って一緒に入るものなんですか?」
そういうものなの? と混乱していると、橘部長は返事もせず、私を抱えた。
「や、やだ! おろしてください! 一緒にとか恥ずかしいです! それに、絶対えっちなことするでしょ?!」
橘部長はやっぱり何も言わなかったが、楽しそうな気がする。浴室まで連れていかれて、綺麗な洗面台の前におろされた。鏡の中で改めて自分を見ると、頬もふっくらしたなと思う。今が一番健康的なんじゃないかな。私が物心ついた頃には、実家の工場はすでに多額の借金を抱えていた。贅沢した記憶はひとつもない。