わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
「……さくら……?」
声を掛けられたので寝室の方を振り返ると橘部長が半身を起こしているのが見えた。灯りはつけてなかったけど、私の気配に気づいたのかと思って謝った。
「うるさくしてごめんなさい! 寝ててください」
「何を……食べている……?」
「……メロンパンです。うちの近所のパン屋さんの。私が好きだから、妹が買っといてくれたんです。美味しいですよ」
質問以上の事を私は答えた。
暗闇の中、スイートルームの贅沢なソファに座って、メロンパンを頬張ってる貧相な私は、かなり間抜けだったと思う。でも橘部長も結構間抜けな事を言った。
「私も食べたい……」
「半分どーぞ」
半分千切って差し出した。
橘部長がベッドからおりてガウンを羽織るとソファの方へ歩いてくる。私は細っ! と思ってそれを見ていた。無駄のない肢体だが、もう少し筋肉がある方が好みだなぁとも思っていた。でも、細くても力は強いから、男の人ってすごい。
二人でソファに並んでメロンパンを食べてるのが楽しくて笑ってると、橘部長が無表情のまま「桜は可愛いな」と言った。ぽわっと顔が熱くなるのを感じた。赤面してる、私。
「あ、あ、ありがとうございます」
戸惑いながらお礼を言ったら橘部長が額にキスをした。愛おしいものに対するキスだなぁと伝わったから、私のドキドキがさらに高まる。
セックス中の嗜虐的な橘部長と、今みたいな穏やかな橘部長と、どっちが本性なんだろう。
……結局、メロンパンが呼び水になり、本格的におなかがすいたので、シャワーを浴びて着替えて食事に出掛けた。駅前にある二十四時間営業の居酒屋で飲むことにした。