わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 新幹線のグリーン車はシートがふっかふかで、とっても広い。私を海側の窓際にしてくれたので、通り過ぎていく工業地帯をワクワクしながら眺めていると、橘部長が私の腕を引いた。

「どうしました?」
「婚姻届を出す時に戸籍を見ると思う」
「はい……それが何か?」
「私は父の実子ではない」
「そうなんですね」

 戸籍謄本を見るつもりはなかったけど、私が昨日、実家で見せたからそう言ったのだろう。何となく血縁がないのかなとは思っていたし、特に気にせず話を続けてもらった。

「父は、奥様と死別してからしばらく独りだったそうだが、私が十歳の時に母と再婚した。その時に養子縁組はしてもらったが、同時に私は相続を放棄する約束もしている」
「そう、ですか……」

 生前に相続の放棄は出来ないし、約束も法的なものにはならないけど、多分、親族にさせられたんだろうなと思った。それ以上は言いたくなさそうだったから聞かないことにした。
 話題を変えようと思って、私は、私が母と話している間に橘部長が何をしていたか聞こうと思って質問した。

「そういえば、さっきは後楽園も行ったんですか?」
「いや……」

 あれ、楽しくなかったのかな? 一人にしない方が良かったかな? と思って横を見ると、橘部長は私の方を見ていた。

「実は、もう一度、君のご実家にお伺いしていた」
「え?! なんで?」
「負債についての話をしてきた」
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