わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
これから出す婚姻届の証人欄はそれぞれの父親に書いてもらった。書類に不備がないかチェックをしてもらう事になったので、その間、庭で遊ばせてもらった。
立派な錦鯉の餌やりをさせてもらって、それが物凄く楽しかった。やっぱり鯉の餌やりはエキサイティング! 大好き!
ガボガボと水面に大きな口を広げてくる鯉の群れに、麩を放り込んでいくのがめちゃくちゃ面白くて「鯉の餌やりって、USJのアトラクション並みに楽しいですよね!」と言ったら、橘部長が無表情のまま「USJに行った事はないが、とても楽しんでるのだという事は伝わった」と言っていた。
「一緒に行きます?」
「いやだ。アンデッドが怖い」
「橘部長にも怖いものがあるんですね。USJは、年がら年中ゾンビがウロウロしてるわけじゃないですよ」
期間限定だと説明したら納得していたけど、一度見たテレビCMでトラウマになったらしい。
無表情でゾンビから逃げる橘部長を想像したら可笑しくて、私は麩を放り投げながら笑いがとまらなかった。
「そうか。そうだったのか……。では子供が出来たら連れて行こう」
「ひえっ?!」
デートに誘ったつもりだったのに、話が飛んでびっくりした。
近くで聞いていたお母さんが「あらぁ、宮燈さん、ほんまにえらい好きなのね、桜ちゃんのこと。母さん、宮燈さんがロリコンやなんて、知らへんかったわぁ」と言うから池に落っこちそうになった。
「母さん、これでも桜は成人しています」
「これでもって何ですか。言い方酷い」
抗議したけど橘部長からは無視された。
「好みの女子にするために、ちいそうて可愛い女の子を拐うてきたんと違うん?」
「若紫ではありません。もう二十一歳ですから」
「あら! いややわ。ほんまに? えらいすんません。義仁さんが高校生て言うてはったから、十六歳位やと思うてたわ」
いつも実年齢よりは低く見られる。それは仕方ないけど、このお母さん、思い込み激しすぎる。口元に人差し指をあてて、小首を傾げていた。小悪魔だ。多分この人は、天然だ。
「んーでも、二十一歳もあかんのんとちがう? だって宮燈さんもうさんじゅう……」
「お母様! ね! ほら見てください! 鯉の背中に亀が乗ってますよー!」
私は話をそらそうとして袋をひっくり返して、残りの麩を撒き散らした。麩がひとつ弾かれて、ぽこんと橘部長の足元に転がったから、投げるよう促した。
橘部長が遠投して、池の真中に落ちたから、のんびり泳いでた小さい亀がパクっと食べていて可愛かった。