わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
お庭で遊んでると雨が降り出したので、母屋に戻ると書類の準備も整っていた。左京区役所まで車で行くと聞いたから、私が「十分位なら歩きませんか?」と言うと、橘部長が「……そうだな」と答えてくれた。そのやり取りを見ていたお父様とお母様が、少し驚いた表情になった。
「宮燈さんが雨の日に歩くなんて珍し」
お母様がそう呟いていた。
傘をお借りして、門から外に出て私は深呼吸した。緊張したー!
閑静な住宅地は日曜日という事もあって、本当にとても静かだった。しとしと降る雨の音が心地いい。お散歩みたいで、何だか楽しい。初めて訪れた街だったから、きょろきょろしながら歩いているとすぐに左京区役所に着いてしまった。
窓口で婚姻届を出す。あっさりと受け付けられて、拍子抜けした。
これで、もう結婚しちゃったの?
なんだか現実味が無い。現実味ゼロ。ゼロ~。
そう思っていると、隣で橘部長が呟いた。
「……これでもう、我慢しなくていいな」
「これまでも我慢してましたっけ?」
全然、自重してなかったくせによく言うわ! と思って言い返したが、返答は無かった。
「私は終電で東京に戻る」
「お夕飯をご一緒出来るんですよね」
話しながら戻ったが、帰りは何だか早足な気がした。帰宅すると玄関に迎え出てくれたお母様に、無事婚姻届を出したことを伝えて、橘部長が言った。
「離れにいます。夕飯もそちらに」
「あらあら、桜ちゃんとお話したかったのに。宮燈さんたら、やらし」
お母様はやっぱり物の怪じゃないかと思う。とても美しい顔で、ふふふと笑って手を振っていた。