わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
「離れってどこですか? お夕飯は皆で食べるんじゃないんですか? 何なに???」
わけがわからないまま、橘部長に肩を抱かれて連れて行かれたのは、敷地内にあった小さな家だった。小さいといってもうちの実家よりは広い。
「母が再婚した当時、兄も姉も家にいたから、私は母屋に入れてもらえなかった。この離れが私の居場所だった」
死別された前の奥様との間に一男一女があり、再婚はいいが連れ子がいるのに反対で、橘部長は「自分は母屋に来んといて」と言われていたそう……。家族になったはずなのに、自分だけ家に入れてもらえないなんて……一体どんな気持ちだったんだろう。
今は誰も使っていないが、掃除や換気などの手入れはされているらしく、とても綺麗だった。
橘部長が使っていた私室に連れて行かれた。ベッドと小さな机だけの部屋。十歳の時に親が再婚したと言ってたから、まだ小学生だったはず。たった一人でここにいたことを想像すると、何だか寂しくなってしまった。
うちは特に仲良しなわけではないけど、貧乏で家が狭いから常に顔を付き合わせて暮らしてきた。うるさいと思うことはあっても寂しいと思うことはなかった。
私が俯いていると、橘部長の手が頬に触れる。
「今日は、ここがあってよかったと思っている。新幹線の時間まで覚悟して欲しい」
「…………まさか、ずっとえっちしようって言ってますか?」
なんて酷い事を言うんだと思って見上げると、無表情だった橘部長が笑った。
え、好き。