わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
宮燈さんはスーツを着て、私は浴衣のままで母屋へ行った。
「もう! 宮燈さん、桜ちゃんに無体したらあかんよ!」
お母様がぷんぷん怒っていて可愛い。宮燈さんは無表情のまま「桜をお願いします」と言っていた。お母様が私の方を見て笑った。
「桜ちゃん、見送ったら着替えよか。これ似合うんちゃうかて、たーんと服買うてあるんよ」
「え? え?」
「向日葵もよう似合うてるなぁ。義仁さんと宮燈さんから桜ちゃんのこと聞いて、向日葵みたいやな思うて準備してん」
名前は桜やけど、笑うと夏の向日葵やねぇ、とお母様が言った。
東京へ戻ってしまう夫たちを乗せた車を見送って、ゲートが閉まるとお母様が言った。
「桜ちゃん、おおきにね。宮燈さんがあないに嬉しそなん初めて見るわ。ずっと親の都合でしんどいばっかりで申し訳ないなあて思うてん」
「……こちらこそ、何もかもお世話になりっぱなしで」
「お金の事なら気にせんといてね。うちも宮燈さんも個人資産はあるし、橘の家は余っとるし。うちと宮燈さんは遺留分含めて相続放棄する事になってるさかい、義仁さんが元気な今のうちに使うてまお思うてん。ふふふ!」
法律に保護された遺留分まで放棄させられるなんて、と思ったがお母様は面白そうに笑っていた。ふわふわの天然に見えて、芯は強い方なのかなと思った。
「あの子が笑うてくれるなら、その方がよっぽどええんよ。桜ちゃんの前では笑うんやろ?」
「……はい」
「ええねえ。愛やねえ」
愛か。愛なのか。多分、愛なんだろう。
この後、何故か夜遅くまで着せ替え人形にされて、両手に持ちきれない位の服を貰って、車で送ってもらって自分のアパートに帰宅した。
「クローゼットに入りきらない……」
なっちゃんを呼んで、セレクトしてもらおう。お母様の暴走にちょっと途方に暮れつつ、あの母子、顔も中身もそっくりだな、と思っていた。