わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

「な、なんでいるんですか?!?!」
「君こそ、どこに行っていた?」

「研究室です。合鍵は渡すけど、勝手に家に入らないって約束しましたよね?!」

「私は何度も電話をしたのに、繋がらないから来た」

 電話? と思ってバッグを見ると無い。ベッドを見ると枕の下に置き忘れていた。そして、そのことに気づかずにいた。恐ろしい程の着信履歴があって、ひええと思って顔をあげたら、宮燈さんが無表情で私を見下ろしていた。

「熱を出している君とずっと連絡がつかなかったら、心配にもなるだろう」

 無表情だったが、怒ってるのが分かる。しかも、物凄く怒ってる。
 私は「でも、治りましたって連絡しまし……」とそこまで言いかけて気づいた。私が連絡したのはお母様で、宮燈さんじゃない。しまった……。

「私は連絡をもらっていない。その連絡は誰に?」
「お母様です……」
「私を忘れていたのか」
「忘れてたわけじゃないですけど……」

 いや、正直に言えば忘れていた。昨日まで熱があって、その間は頭痛が酷くて画面を見るのもいやで一切連絡しなかった。今朝、熱が下がりましたと一言メッセージを送ってから大学に行けばよかった。

「……でも、だからって勝手に家に入らないでください! 約束守れないなら合鍵返して!」
「いやだ」

 宮燈さんはそれだけ言うと、無表情のまま家を出て行った。宮燈さんを怒らせてしまった。
 そう思うと苦しいくらいに胸が痛い。体が冷たくなっていく。

 忘れてた私が悪いのに謝ってない。
 心配してわざわざ来てくれたのに、ありがとうも言ってない。
 会えて嬉しかったのに触れてもいない。

 謝ろうと思って表に出たけれど、もう宮燈さんはいなかった。電話をしてもそれ以降は一切繋がらなかったし、ごめんなさいとメッセージを送っても既読のまま無視されていた。

 そして、その状態のまま、内定式を迎えてしまったのだった。
< 77 / 188 >

この作品をシェア

pagetop