わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
食事にもあまり手をつけず考え事をしていたら、一般職採用担当の斎木さんが私の隣に来て笑って言った。
「橘部長の事、そんなに気になるなら話しかけてくれば?」
「え? いえ、気になるとかそんな事ないです!」
「そう? さっきから橘部長ばっかり見て可愛いなあって思ってたんだけど。大学の先輩でもあるし、話しやすいんじゃないの?」
「あはは、いえいえ。橘部長ってモテるなあって思ってただけです」
私がそう言うと、林さんが口を挟んできた。
「確かにね。去年も同じ光景が繰り広げられてたよ」
「でも、終始あの調子で冷淡だからさあ、私は苦手なのよね」
斎木さんがそう言うと、林さんが笑った。斎木さんは新婚さんだから、その事をからかって林さんが言った。
「斎木さんは旦那さん以外に興味ないからでしょ」
「そんなことないよ。美形だなとは思うよ。でもさ、冷たくて苦手って言ったら宮様ファンに『冷たい? クールなのよ、そこがいい!』って言われた! あはは」
「ああ、そうなんですかあ……」
適当に相槌をうちながら、誤解されたまま好かれたら、そりゃ宮燈さんも居心地が悪いだろうなと思った。
宮燈さんは冷たくなんかない。表情が無いからクールに見えるだけで、むしろ怖くなる程の熱情を込めて私を抱き締める。しばらく触れられてないな、と思うと胸が痛い。
「でもさあ、噂では橘部長に彼女が出来たらしいよ。頻繁に京都に行ってるから、地元で縁談でもすすんでるんじゃない? ってファンの子が予想してた」
「言われてみれば、橘部長が私用の携帯を見てる回数が増えたかもしれない。うわあ、そういう事かぁ!」
それを聞いて、心臓がビックーー! と跳ねた。
ファンクラブ恐るべし。
それに、仕事中にスマホ見てること、林さんにバレてるじゃん!
気を張ってしまって、これで春からやっていけるのか不安で、何だか疲れた。親睦会のお開きはまだだったが、林さんと斎木さんに挨拶して、先に帰ることにした。もう寝よう。