わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
食堂から宿泊棟の間には小さい中庭がある。雨でも濡れないようサンルーフがあり、緑がたくさんあって、今日初めてここに来たけど素敵な場所だなぁと思っていた。中庭で少し休もうかなと思っていたら先客がいた。
宮燈さん、そしてその横に女。
心臓が軋んだ。
私の中にこんなどす黒い感情あったの? ってびっくりするくらい。
怒りじゃなくて絶望と破壊みたいな負の感情。
宮燈さんは無表情だったけど、その女がやたらと距離を縮めようとしている。
私の存在に気づいた宮燈さんと目があった。やっぱり無表情だった。いつもは分かるのに、今は気持ちが全然読めない。
少しは驚いたら?
それとも私なんか、もうどうでもいいから無表情なの?
平素だったら思わないであろう卑屈な思考に嫌気がさす。柄にもなく泣きそうになったから、二人の横を走り抜けた。
いや、走り抜けようとした。
でも、伸ばされた宮燈さんの腕に捕まってしまった。「え?」と驚いたのは私だけじゃなくて、その女の子も同時に声をあげていた。
「待ちなさい」
「なんですか?」
腕を振り払って私が宮燈さんを睨む。宮燈さんは無表情だけど、何か言いたげな顔をしている。隣にいるその女・吉岡が、私と宮燈さんの視線の間に割って入る。
眉を下げて、でも笑いながら彼女が私に話しかけた。
「私たちが二人きりでここにいたって、内緒にしてくださいねぇ」