わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 食堂から宿泊棟の間には小さい中庭がある。雨でも濡れないようサンルーフがあり、緑がたくさんあって、今日初めてここに来たけど素敵な場所だなぁと思っていた。中庭で少し休もうかなと思っていたら先客がいた。

 宮燈さん、そしてその横に女。



 心臓が軋んだ。
 私の中にこんなどす黒い感情あったの? ってびっくりするくらい。

 怒りじゃなくて絶望と破壊みたいな負の感情。
 宮燈さんは無表情だったけど、その女がやたらと距離を縮めようとしている。

 私の存在に気づいた宮燈さんと目があった。やっぱり無表情だった。いつもは分かるのに、今は気持ちが全然読めない。

 少しは驚いたら?
 それとも私なんか、もうどうでもいいから無表情なの?

 平素だったら思わないであろう卑屈な思考に嫌気がさす。柄にもなく泣きそうになったから、二人の横を走り抜けた。
 いや、走り抜けようとした。
 でも、伸ばされた宮燈さんの腕に捕まってしまった。「え?」と驚いたのは私だけじゃなくて、その女の子も同時に声をあげていた。

「待ちなさい」
「なんですか?」

 腕を振り払って私が宮燈さんを睨む。宮燈さんは無表情だけど、何か言いたげな顔をしている。隣にいるその女・吉岡が、私と宮燈さんの視線の間に割って入る。
 眉を下げて、でも笑いながら彼女が私に話しかけた。

「私たちが二人きりでここにいたって、内緒にしてくださいねぇ」
< 80 / 188 >

この作品をシェア

pagetop