わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
言葉の意味を理解できず、三秒程固まってしまった。
ああ、二人の逢い引きを見ちゃった私が逃げようとしたって感じね。OK、OK!
「うん、内緒にしとくね!」
「ありがとぉ、噂になっちゃうと困るんでぇ」
舌足らずなしゃべり方に、ついイラっとしてしまった。宮燈さんは無言だった。こんな所に一秒たりともいたくない。そう思ってたのに、吉岡はさらに話を続ける。
「清川さんってぇ総合職なんですよねえ~すごいなぁ~! バリバリ仕事して出世してくださいねぇ。海外勤務もあるんですよね? 結婚願望とかなさそう~」
「プライベートはあなたには関係ないでしょ、何言ってるの? 内々定通達の時も、同期の男子から『行き遅れるぞ』とか言われたから、それが総合職の女子に対する世間一般の認識なんだろうけど、バッカみたい」
目の前の吉岡がポカンとした顔をしていた。
しまったー! 心の声が駄々漏れしていたーー!
私の悪い癖だ。それで杉岡さんにも嫌われてるのにーー!
私は「何でもない! ごめん!」と言って笑って誤魔化して宿泊棟の方へ逃げた。やべっ。これで吉岡を敵にまわしてしまった。やべっ。
脱兎のごとく逃げていたら、遠くから「え、橘部長?」と言う吉岡の戸惑う声が聞こえた。思わず振り返ったら、すぐ後ろに宮燈さんがいた。
私が「ぎゃー!」と可愛くない悲鳴をあげたら、宮燈さんに腕を掴まれた。物凄い勢いで追いかけてきたらしい。