わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 なんで? と戸惑っていたら抱き締められた。まだ濡れてる髪を撫でてる。怒ってるんじゃないの?なんでこんなに優しく扱われてるんだろう。抱き締められたまま、私は質問した。

「宮燈さん、怒ってる?」
「怒っている」

「ごめんなさい。来てくれたのに、ありがとうも言わずにごめんなさい。治りましたって連絡忘れて、心配かけてごめんなさい」

「君がもう回復していたのは知っていた」
「そうなの?」

 びっくりしたから体を離すと、宮燈さんは真っすぐ私を見下ろしていた。

「君に何度電話しても繋がらないから、母に連絡をとった。だから、君の熱が下がっていたことは知っていた。だが、それを何故私には言わないのかと苛立った。それで定時後すぐに新幹線に乗った」

「お母様から聞いてたんですね……」
「君の顔を見たらすぐ帰ろうと思っていた。翌日は朝に会議の予定もあったから」
「忙しいのに、来てくれてありがとうございました」

 私を見下ろしている宮燈さんは無表情だった。怖い。いつも通りなのに、宮燈さんがこんなに綺麗で怖いの初めてだ。
 宮燈さんはまた私を抱えて、ぽいっとベッドに下ろす。ジャケットを脱いで、ネクタイを解き、縮こまってベッドにうずくまる私の横に来るから、怖くてますます小さくなった。

「何故、私を忘れていた?」
「ごめんなさい、うっかりです」
「誰にでも間違いはある。特に君は間が抜けているし」
「うう、それ何回も言われている気がします」
「……怒ったよ、とても」

 橘部長は私が着ているルームウエアを脱がせながら言った。

「あの日は『私を忘れるなんて許さない』と思いながら帰った」

 ひええと思っていたらキスされた。遠慮もなにもないキスで、口の中全部舐められたと思う。唾液が混ざり合う。胸は少し乱暴なくらいに揉まれていて、指で愛撫されると腰が勝手に跳ねるほど気持ちいい。キスから解放されて喘いだ私を、無表情に見下ろしながら宮燈さんが言った。

「この階は、私しか宿泊していない。でも、いつ誰が廊下を通るかわからない。だから声を出すな」
「……はい」
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