わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
中庭を通るとき、私は少しだけ歩みを緩めた。昨夜と違って朝陽が降り注ぐその場所は、何故かキラキラしてるような気がした。
そこで、陽の光を浴びて立っていた宮燈さんは神様みたいに美しかった。
やっぱり弥勒菩薩かもしれない。拝んでおこう。
私を見つけた刹那に口角が上がる。
宮燈さんが笑った。一瞬だけど。
その時、自分でもびっくりするくらいにうれしくなった。私はこの人がとても好きなんだ。笑ってもらえたら、それだけでいい。世界が全部輝いてる!
「橘部長、もう出社されたのかと思ってました」
「またしばらく会えないから、君を待っていた」
「ありがとうございます、うれしい。……私は午前中の新幹線で帰ります。何人かは東京で遊んでから帰るみたいですよ」
「君はいいのか?」
「ゼミが忙しいので」
私がそう言うと、宮燈さんが「そうか、頑張りなさい」と無表情で言い、歩き始めたからそれについて行った。
研修所はロータリーがあるが、そこに社用車が横づけしてあるのが見える。玄関には宮燈さんを迎えに来たのであろう杉岡さんがいて、私を見るなり物凄く嫌そうな顔をした。でも、すぐにビジネスライクな顔に戻り、宮燈さんには「おはようございます」と挨拶をし、ついでのように私にも「おはよう」と言ってくれた。
杉岡さんは何もかも知っている。知ってて見守ってくれている。
私は嫌われてるけど、杉岡さんみたいな存在って有り難いんだなと思った。
「おはようございます、杉岡さん。いつもありがとうございます。昨日、無事内定を頂きました。これからもよろしくお願いします」
私がそう言って笑うと、杉岡さんがびっくりしたような顔をして、「あ、ああ。内定おめでとうございます。これからもよろしく」と照れていた。
面と向かって御礼を言ったことないからかなぁ。照れんなよっ、おっさん!
車が出て行くのを見送って部屋に戻り、私も帰り支度をする。疲れた。異様に疲れた。気疲れした。あと体も痛い。
帰りの新幹線で眠ってしまった私は、赤ちゃんを抱っこしている宮燈さんの夢を見た。疲れていたはずなのに、目が覚めたら何故かとっても幸せだった。
ただ、目覚めたのは新大阪だったので、博多まで行かなくて本当に良かったと思った……。