恋に揺蕩う
紗衣と飲んだ翌日、通学のために電車に揺られていた。
結局あの後は泥酔した紗衣を寝かせ、自分も一緒に寝はした。
途中トイレに起きるなりスマホを手に取る。
先天性の重いまぶたの中にある黒目が、時刻探しにきょろきょろと一生懸命動いた。
そのすぐ後、時刻が夜中の2時46分だと理解すると、同時に日付と曜日までが「見ろ」と言わんばかりに目に飛び込むので、叫びたくなる気持ちを押さえてフラフラとまた同じ姿勢で眠りについた。
そう、今日は何を隠そう週の始まり月曜日。
珍しく朝4時すぎに目が覚め、始発で家に帰り、お風呂に直行し、男ウケする“らしい”ぬくぬくとしたセーター生地のワンピースに頭を通し一息つくと、歯磨きをしながら教科書を乱雑にリュックに詰め、最後に髪もメイクもバッチリキメたのちの今なのだ。
今朝、私のように急いだ人も、はたまた一段と優雅に過ごした人も、いつもとなんら変わらなく過ごした人も、ここではみんな同じような顔をして、同じような四角い機械に目をやる。
ありふれた例えで申し訳ないが、本当まるでお葬式に行くようだ。
自分もその中の一員なのだということを思い出すとなんだかちょっと悔しくなって、リュックから上辺が潰れかけている小説を静かに引っ張り出した。
こんなに完璧に準備して、しかも知的そうに本を読んでいる私…
自惚れやすい自分を理解しているが辞めようとはせず、懲りずに「私はなんて偉いんだろう」と、歯を噛み締めた。
しばらくして、小説を7ページくらい捲ったところで集中力が一切なくなった。
元々飽き性ではあるが、1つの本すらまともに読むことのできない自分には正直呆れている。
荒治療として、無理やりにでも本を読むことでリハビリしようだなんて思ったが、ここでなぜかコレクト癖がちらりと顔を出してきたために、家には似たような恋愛小説が5つは縦に積み上がっている。(本を読まない人の典型的な本収納…)
そうすると、買ったからには読まなければ…と今度は己の負けず嫌いが姿を表す。
だから今日もこうして読み切ることを目指して、なんだかんだ本を持ち歩いている。
もしかして私は、厄介な自分の性格を熟知していて、生活の中でまあまあ良好なループを作っているのではなかろうか!
…否、そんなことはない。(苦笑)
自分の心の中でひと悶着したら、スッと顔色を落ち着け、豪快に開けたチャックに引っかからないよう小説を放り込み、すぐにポッケにねじ込んでいたスマホを手に取った。
厚底を履くことでやっと紗衣と肩が並ぶほどの身長の朱里は、吊革の下に並んで立っていると、隣に立つ人は自分の手元にあるスマホの画面や本の内容が、どうも見えてしまうのではないか、とそわそわする。
ご存知の通り、実際人は自分が思っているほど、自分のことなど見ていないのだが。
それを分かっていても気にしてしまう性なため、少し行動を躊躇う。
瞬間、電車がトンネルを抜けてみるみる光がさした。
それと同時にさっきまでの気にしいを無視して、好奇心のストッパーがどこかへ飛んだ。
隣の人に見られても恥ずかしくないですよ?なんていうようないらない顔をして、インストールしたてほやほやのマッチングアプリを、いかにも慣れた手つきでタップした。
すぐさま“ようこそ”と明るい画面が出てきて、慌てて画面の明るさを下げた。
ちょろくも歓迎された気持ちに浸りながら、上機嫌で個人情報を打ち込んでいった。
朱里は元々容姿に自信がなかったが、その自信のなさこそが引き起こす“他人からの評価”に固執するあまり、晒しはしないもののいろんな角度からのものや加工の有無もバラバラの自撮りが写真フォルダに多く集まっていた。
“顔の鮮明なものを”と教えてくれているアプリのアドバイスには眼中に入っていないフリをして、フォルダから雰囲気の良さそうな、だけれど顔も体型も冴えないことが分かりづらい写真をピックアップした。
我ながら見栄えの良い写真並びに心の中でガッツポーズを決め、その他諸々趣味の設定や自己紹介は凝りすぎずにパパっと終わらせた。
新たな出会いの幕開けに、勝手に壮大なBGMを流して胸を膨らませる。
初めての感覚に大きく息を吸いたい気持ちを抑えて、スマホにのめり込みするすると手を滑らせていった。
──さて、一方その電車が、学校の最寄りを飛ばす快速急行だったということはまた別のお話…
結局あの後は泥酔した紗衣を寝かせ、自分も一緒に寝はした。
途中トイレに起きるなりスマホを手に取る。
先天性の重いまぶたの中にある黒目が、時刻探しにきょろきょろと一生懸命動いた。
そのすぐ後、時刻が夜中の2時46分だと理解すると、同時に日付と曜日までが「見ろ」と言わんばかりに目に飛び込むので、叫びたくなる気持ちを押さえてフラフラとまた同じ姿勢で眠りについた。
そう、今日は何を隠そう週の始まり月曜日。
珍しく朝4時すぎに目が覚め、始発で家に帰り、お風呂に直行し、男ウケする“らしい”ぬくぬくとしたセーター生地のワンピースに頭を通し一息つくと、歯磨きをしながら教科書を乱雑にリュックに詰め、最後に髪もメイクもバッチリキメたのちの今なのだ。
今朝、私のように急いだ人も、はたまた一段と優雅に過ごした人も、いつもとなんら変わらなく過ごした人も、ここではみんな同じような顔をして、同じような四角い機械に目をやる。
ありふれた例えで申し訳ないが、本当まるでお葬式に行くようだ。
自分もその中の一員なのだということを思い出すとなんだかちょっと悔しくなって、リュックから上辺が潰れかけている小説を静かに引っ張り出した。
こんなに完璧に準備して、しかも知的そうに本を読んでいる私…
自惚れやすい自分を理解しているが辞めようとはせず、懲りずに「私はなんて偉いんだろう」と、歯を噛み締めた。
しばらくして、小説を7ページくらい捲ったところで集中力が一切なくなった。
元々飽き性ではあるが、1つの本すらまともに読むことのできない自分には正直呆れている。
荒治療として、無理やりにでも本を読むことでリハビリしようだなんて思ったが、ここでなぜかコレクト癖がちらりと顔を出してきたために、家には似たような恋愛小説が5つは縦に積み上がっている。(本を読まない人の典型的な本収納…)
そうすると、買ったからには読まなければ…と今度は己の負けず嫌いが姿を表す。
だから今日もこうして読み切ることを目指して、なんだかんだ本を持ち歩いている。
もしかして私は、厄介な自分の性格を熟知していて、生活の中でまあまあ良好なループを作っているのではなかろうか!
…否、そんなことはない。(苦笑)
自分の心の中でひと悶着したら、スッと顔色を落ち着け、豪快に開けたチャックに引っかからないよう小説を放り込み、すぐにポッケにねじ込んでいたスマホを手に取った。
厚底を履くことでやっと紗衣と肩が並ぶほどの身長の朱里は、吊革の下に並んで立っていると、隣に立つ人は自分の手元にあるスマホの画面や本の内容が、どうも見えてしまうのではないか、とそわそわする。
ご存知の通り、実際人は自分が思っているほど、自分のことなど見ていないのだが。
それを分かっていても気にしてしまう性なため、少し行動を躊躇う。
瞬間、電車がトンネルを抜けてみるみる光がさした。
それと同時にさっきまでの気にしいを無視して、好奇心のストッパーがどこかへ飛んだ。
隣の人に見られても恥ずかしくないですよ?なんていうようないらない顔をして、インストールしたてほやほやのマッチングアプリを、いかにも慣れた手つきでタップした。
すぐさま“ようこそ”と明るい画面が出てきて、慌てて画面の明るさを下げた。
ちょろくも歓迎された気持ちに浸りながら、上機嫌で個人情報を打ち込んでいった。
朱里は元々容姿に自信がなかったが、その自信のなさこそが引き起こす“他人からの評価”に固執するあまり、晒しはしないもののいろんな角度からのものや加工の有無もバラバラの自撮りが写真フォルダに多く集まっていた。
“顔の鮮明なものを”と教えてくれているアプリのアドバイスには眼中に入っていないフリをして、フォルダから雰囲気の良さそうな、だけれど顔も体型も冴えないことが分かりづらい写真をピックアップした。
我ながら見栄えの良い写真並びに心の中でガッツポーズを決め、その他諸々趣味の設定や自己紹介は凝りすぎずにパパっと終わらせた。
新たな出会いの幕開けに、勝手に壮大なBGMを流して胸を膨らませる。
初めての感覚に大きく息を吸いたい気持ちを抑えて、スマホにのめり込みするすると手を滑らせていった。
──さて、一方その電車が、学校の最寄りを飛ばす快速急行だったということはまた別のお話…