傲慢?ワガママ?悪役令嬢?それでかまわなくってよ!~聖女の力なんて使ってやるもんですか!!
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元フィールド辺境伯領にて戦争が始まり、一ヶ月が過ぎようとしていたそんなある日の朝。最後方に陣を構えていた王太子騎士軍が何の知らせもなくやって来た。
これから戦いが始まろうとしているのに何をしに来たのか……。自分の前に立つファルロを凝視し、オウガは喉がひりつくような乾きに襲われた。
「オウガ、随分と手間取っているようだがどうしたんだい?もう一ヶ月経つというのに……」
人好きのする笑顔でファルロはオウガに問い、回りに聞こえないようオウガの耳元で囁いた。
「ねえ、オウガ早くしないとどうなると思う?」
騎士の礼を取っていたオウガが顔を上げると、ファルロが口角を上げニヤリと笑っていた。これが王族の素顔。セリカの話を信じていなかったわけではないが、実際に目の前で、笑顔の威圧を受けると冷や汗が吹き出した。ゾクリと震える背に流れる冷たい汗。
オウガの目が見開かれたのを確認して、ファルロが楽しそうに笑った。
「皆、良く聞け!!勝利は目前だ。もう少し頑張ってくれ」
王太子自ら前線に赴き、士気を高めてくれたと、騎士達が雄叫びを上げる。
「「「「おーーーーーーーーー!!!!」」」」
ファルロは士気だけ上げると、また後方へと立ち去っていった。
それをセリカは冷ややかに見つめていた。
殿下一体何しに来たのかしら?
自分は後方で見守るだけで戦いもしないで……。
全てオウガに押しつけて。
あいつらのすることは汚い。絶対何かを企んでいるはず。
チラリとオウガに目を向けると、青い顔をしたオウガの姿があった。
オウガは俯いたまま顔を上げない。
何か言われた?
顔を青ざめるオウガの唇にセリカは唇を重ねた。皆が見ていたがそれを気にしている余裕などなかった。このまま戦場に赴けばきっと怪我だけではすまない、そんな気がしたのだ。
「オウガ大丈夫ですか?」
心配そうにオウガの顔を見つめるセリカの瞳が、赤から紫へと変わっていく。オウガはそれを見つめ今度はオウガからセリカの唇を塞いだ。
「すまないセリカ……。行ってくる」
「気をつけて……無事に帰って来て下さい」
セリカはその後ろ姿を祈りながら見つめた。