傲慢?ワガママ?悪役令嬢?それでかまわなくってよ!~聖女の力なんて使ってやるもんですか!!
俺の名前を叫びながら四人が駆け寄ってきた。アスファルトの上に横たわる俺に凰雅が震える声で、誇らしげに言った。
「ファルよくやった。蓮は無事だぞ。よくやった。えらいぞ」
凰雅に褒められるなんて悪い気はしない。俺は「くぅん」と弱々しい声で、オウガに答えた。すると凰雅は肩を振るわせながら両手を握り絞め、揺れる瞳を隠すように俺から視線を逸らした。
その横で唯は俺の名前を呼び続けながら泣きじゃくっている。そんなに目をこすったら明日腫れてしまうよ。そう思いながら唯の手をペロリと舐める。すると唯が大きな声を上げて泣き出してしまった。
「ファルちゃん、ファルちゃん死んじゃ嫌だよー」
蓮は目の前の現実が信じられないといった様子で嗚咽を漏らしていた。
「っ……ファルごめんね。僕のせいだ。僕のせいで……」
蓮……きみのせいじゃない。
そう言ってやりたいが犬の言葉は蓮には届かない。
俺は最後の力を振る絞りもう一度「くぅん」と力なく鳴き、頬に触れている蓮の手にすり寄る。そんな俺の行動のせいで蓮が更にむせび泣いてしまった。
そんな中、芹花が血まみれになった俺の体を抱き上げ、優しく宝物のように両腕で包み込んでくれた。芹花の温かさを優しさを感じて俺の心は凪いでいた。
この三年間、俺は幸せだった。
前世では愛を知らずに成長し、愛を欲する屈折した俺。王の命令に従う事しか出来ず、人も殺した。王に……お父様に愛してほしかったから……。そんな俺がこんなに穏やかな時間を過ごすことができるなんて……。
ファルは走馬灯のようにこの三年間を思い出していた。
唯と一緒に庭を駆け回ったこと、日向ぼっこをしながら一緒に眠ったこと。蓮とは色々な悪戯をした。それが後でばれてしまい芹花に怒られたこと、蓮と遊ぶと泥だらけになってしまうことが多く、いつも芹花に怒られていたっけ。蓮とは一緒に怒られてばかりいたな。
凰雅にはいつも噛みついていた。血が出るほど噛みつきはしなかったが、嫌がらせだった。それでも凰雅は可愛がってくれていた。家族の一員だと。
芹花はいつも優しかった。俺を抱きしめる手が、撫でる手が心地よくて、愛を欲していた心が満たされていくのを感じていた。
意識が薄れていく……先ほどまで体中が痛かったが、さほど痛みを感じなくなっていた。俺の頬に芹花の涙がこぼれ落ちる。
「ファル……。ありがとう……ありがとうね。蓮を守ってくれてありがとう」
ありがとう……。
それはこっちの台詞だ。
こんな俺を、家族にしてくれてありがとう。
抱きしめてくれてありがとう。
愛してくれてありがとう。
泣いてくれてありがとう。
ありがとう。
俺の大切な……。
大切な家族。
どうか幸せに……。
薄れゆく意識の中で俺の家族がすすり泣く声と、芹花の優しい歌声が聞こえていた。