神殺しのクロノスタシスⅢ
…なんて思ってた時期が、俺にもありました。

「はーっ、はーっ…」

「…あのさぁ、ツキナってさぁ」

「はふぅ~…」

「…控えめに言って、めっちゃ弱いね」

「あうっ!!」

涙目のツキナ。

ごめんね。

舐めてかかっても、全然余裕だったよ。

何なら、魔法を使うまでもない。

体術だけでも、充分勝てそう。

だって、ツキナって。

「ま、まだ負けてないもんっ!火を出すからね!とりゃーっ!」

ツキナの杖が火を吹く。

その火力、精々ガスバーナー程度。

俺はひょいっと避けて、ツキナの右足首辺りを、ドスッと足払い。

「きゃんっ!」

ワンコみたいな声をあげて、ころんと転ぶ。

弱っ。

「はい、しゅーりょー」

ワンパンKO、どころか。

ワン足払いKO。

「ま、まだまだっ…」

しかし、諦めが悪い。

諦めが悪いのは良いことなのだが。

「今度は氷を出すからねっ!てりゃーっ!」

ピキピキピキ、とツキナの杖から氷のつぶてが放たれる。

ちょっと大きめの雹が、四つ飛んできた。

ポーンと、ボールを投げるみたいな速度で。

ひょいひょいひょいひょい、と順番に避けて。

床に転んだままのツキナの、背中の上に腰掛けた。

「ふー。やれやれ、ここに丁度良い椅子が…」

「うわぁぁぁぁん椅子じゃないもん、椅子じゃないもん!退いてよぉぉ」

「なんかうるさい椅子だなー」

「そんなことするんだったら…!食らえっ!風魔法だ!」

「あー。爽やかな心地よい風を感じるなー」

「ふぇぇぇぇん」

この子、本当に魔導師?

弱いとか、もうそんな次元じゃないよ。

「降参した?」

「してないっ!」

「そっかー。じゃあ降参したくなるようにしてあげよう」

「ふぇ?」

俺は、にやりと魔性の笑みを浮かべ。

うつ伏せになったツキナの脇の下に、手を伸ばした。

古来から行われている、拷問術。

くすぐり攻撃、発動。

「ぷきゃははははぇ!にゃははははやめれぇ。くしゅぐっ…へにゃぁははは!」

「ふふふふ滑稽なり滑稽なり。降参した?」

「してにゃいっ!」

なかなか頑固だな。

ならば。

「じゃあもう容赦は必要ないね」

「ふぇ?」

「秘技。高速くすぐり」

「あはふひゃあはははは!ひゃすけてぇぇこうしゃんすりゅ、こうしゃんすりゅ~!」

こうして。

僅か一分にも満たず、ツキナは降伏条約に屈したのであった。
< 107 / 822 >

この作品をシェア

pagetop