神殺しのクロノスタシスⅢ
「…くすんっ」

勝敗は、決した。

完膚なきまでに叩きのめされた(と言うかくすぐり回された)ツキナは、涙目で体育座り。

…なんかここまで来ると、ちょっと可哀想になってきた。

「…まー元気出しなよ~」

「うぇぇぇん知らない知らない!すぐり君のばかばかばか」

そう言われてもなぁ。

わざと負けてあげても良かったけど、それじゃあ訓練の意味がないし。

「しっかし、ツキナは凄いなー」

「ふぇ?」

「あんなに弱くて、どうしてイーニシュフェルトに入学出来たんだろうね~」

「ふぇぇぇぇんすぐり君が虐めるぅぅぅ」

いや、マジな話。

「まずさぁ、ツキナ」

一番の問題は、魔法の精度や火力云々じゃない。

「使おうとしてる魔法を、逐一対戦相手に伝えるのやめようよ」

「…?」

あれ?

もしかして、無意識?

「『今から炎魔法使うよ!』とか、『風魔法食らえ!』って言ってから攻撃するんじゃ、当然対策されるに決まってるじゃん」

「…!」

何、その青天の霹靂みたいな顔。

本当に気づいてなかったんだ。

「今から攻撃します!なんて、馬鹿正直に宣言しちゃ駄目でしょ」

避けられるか、その魔法を相殺する魔法を使われるか。

最悪、利用される場合だってある。

「わ、私そんなこと言ってる…?」

「物凄く丁寧に教えてくれてたよ」

お陰で、全部綺麗に避けられました。

「でもでも、何も言わずにいきなり魔法使ったら、びっくりするでしょ?」

「…戦闘なんだから、びっくりさせた者勝ちでしょ。ツキナ、ちゃんと勝つ気ある?」

「あるよ!」

あったんだ。

それは意外だなー。

「あのねー、ツキナは思い違いをしてるね」

「思い違い…?」

「対人の戦闘訓練ってね、木偶の坊の魔導人形相手の訓練とは違うんだよ」

俺は、ツキナの隣に座った。

俺がツキナに講釈出来ることなんて、これくらいだ。

如何せん、俺の一番の特技なのだから。

「勝てば良い。生き残った方が勝ち。勝つ為なら、何をしても良い。どんなに卑怯でも狡猾でも良い。勝ちは勝ちなんだから」

「…すぐり君…それってどういう意味?」

わっかんないかなぁ。

そんな純粋な考えじゃ、勝てないよなぁ。

「例えば、さっきのツキナみたいに…『降参します、もうやめてください』って頭を下げる。そうしたら、相手は杖を収めるでしょ?」

「うん」

「その隙に、背中に回り込んで攻撃する。はい、それで勝ち。でしょ?」

「!」

これは単なる一例だ。

相手を油断させて、そこを刺す。

暗殺の、常套手段の一つだ。

「そんな…それはズルだよ!」

「でも勝ちは勝ちだよ。いくらズルくても。生き残ってた方が勝ち。死ねば負け。どんなに汚いやり方でも、勝てば良いんだよ」

そう。

どんな汚いやり方でもね。

「そんなの駄目だよ!そんな勝ち方…。すぐり君は、それで勝って嬉しいの?」

「勝負に嬉しいも悲しいもないよ。だって殺し合いなんだから」

「殺し合いじゃないよ。ただの戦闘訓練だよ…?生きるとか死ぬとか…」

あー…。そうなんだっけ。

俺がかつて行わされていた、毎月の「蟲毒の試験」とは違うんだ。

生き残れば良い訳じゃなくて。

一応、教師に評価をつけられて、成績に反映されるんだっけ。

なら、あまり卑怯な勝ち方は良くないか。

卑怯な勝ち方だったら、いくらでも思い付くんだけどなぁ。

「分かった分かった。じゃあまー、相手を騙して勝つのはやめよう」

俺は、それが一番効果的だと思ってるし、その考えを変える気はない。

だが、それ以外にも、勝つ方法はある。

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