神殺しのクロノスタシスⅢ
一瞬、鼓膜がツン、と痛んだかと思うと。

稽古場内の空気が、ゆらり、と揺れた。

そして。

ガタガタと音を立てて、魔導人形がこてんと倒れた。

…!

これって…。

「どーだ見たか~!これが私の一番得意な魔法だ!」

どや顔で満面笑みのツキナ。

暗殺の為の魔法は、死ぬほど訓練したが。

その他の魔法については、必要ないから、そんなに詳しくない。

でもこの魔法って…。

「ね、何の魔法だと思う?分かる?分かる?」

「…もしかして、音魔法?」

「大せいか~い!」

やっぱり。

音魔法でも、人を殺すことが出来ない訳ではない。

むしろ、相手に聞こえない「音」を使って殺すなら、証拠も残さず暗殺対象を殺害出来る、便利な魔法だ。

でも、音魔法は、使い手を選ぶ魔法でもある。

炎魔法や氷魔法のように、魔導師なら誰でも使える魔法とは違う。

空間魔法や時魔法のように…いや、空間魔法や時魔法ほど極端ではないが。

音魔法もまた、高難度と言われている魔法の一つだ。

…難しさを例えるなら、毒魔法と同じくらいか。

成程、彼女がイーニシュフェルト魔導学院に入学出来たのは、この音魔法のお陰か。

「ねっ、ねっ、凄いでしょ私?」

得意な魔法を見せびらかして、得意気なツキナ。

嬉しそうなのは結構だが。

「うん、凄いけど…」

「でしょ~?えへへ。私だって、やれば出来る子なのだ!褒めてくれてもい、」

「そんな魔法が使えるのに、何で実戦で活かさないの?」

「…」

得意気にはしゃいでいたツキナが、固まった。

…あれ。

聞いちゃいけなかったか?

「…」

ツキナは、無言で俺の隣に座り直した。

「だって、音魔法で戦うのって、ズルくない?」

「…何が?」

「さっきみたいに、人には聞こえない『音』で相手を倒すんだよ。皆は、目に見える魔法で戦うのに。それって、正々堂々戦ったことにはならなくない?」

それの何が問題になる?

むしろ都合が良いじゃないか。

音魔法なんて珍しいんだから、いくらでも初見殺し…ならぬ、初聞き殺しが出来る。

俺が使えたら、存分に有効活用していただろうに。

「それって凄くズルい気がして。そんな卑怯な魔法で勝っても嬉しくないし、負けた方も腑に落ちないって言うか、きっと不愉快な気持ちになるよ」

「…ツキナは、対戦相手の気持ちを慮りながら戦う訳?」

「だってクラスメイトだよ?友達だよ?私…すぐり君が対戦相手だったとしたら、そんな魔法で勝ちたくない」

「…」

…理解不能。

俺には、彼女の言ってることが、全くもって理解不能だ。
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