神殺しのクロノスタシスⅢ
「ナジュ先生…!は、はいっ…」

「音魔法でわざと大きな音、しかも不快な音を立てて相手を攪乱、そして判断力を鈍くさせたところに、一気に奇襲…ですか」

「は、はい」

「良い判断だと思いますよ。魔導師同士の戦いは、基本、短期決戦の方が良い。魔導師は頭が良いから、時間を与えれば与えるだけ、厄介な作戦を立ててきますからね。なら開幕から相手の意表を突き、かつ集中力、判断力を低下させたところを討つ…。よく考えましたね」

「あ…ありがとうございますっ」

ナジュ・アンブローシアから直々にお褒めの言葉を授かり、ぺこりと頭を下げるツキナ。

周りの生徒達も、称賛の目で彼女を見ていた。

うんうん。

ツキナは、音魔法は「目に見えない卑怯な魔法」と言った。

音なんだから、目に見えないのは当然なのだが。

人間が知覚出来ない「音」で敵を攻撃するのが、卑怯だと言うのならば。

簡単な話だ。人間が知覚出来る「音」にしてやれば良い。

隠れて、誰にも見られないようひっそりと行う暗殺とは違う。

皆の前で、広い場所で行う訓練なのだ。やりようはいくらでもある。

頭痛くなるような爆音を叩きつけて、相手の集中力と判断力を削ぎ。

そこを狙って、一気に奇襲。

これなら、音魔法を除いて、他は貧弱なツキナの魔法でも、充分通用する。

そして、見事刺さった。

言うことない。完勝だ。

「すぐりく~ん!」

「はいはい」

次の試合が始まるなり、ツキナが満面笑みでこちらに駆けてきた。

「見てた?見てた?ねぇ見てた?」

「見てたよー。見てたって言うか聞こえてたよ」

耳塞いでたけどね。

「すぐり君の作戦!上手く行ったよ!ナジュ先生にも褒められちゃった」

「褒められてたねー」

俺も聞いてたよ。

「俺のお陰だよ~。凄いでしょ~」

「凄い凄い!すぐり君凄いよ~っ」

「も~っと褒めてくれても良いよ~?」

「も~っと褒める~っ!すぐり君ありがと~っ!」

無邪気に抱き締めてくるツキナ。

…の、背中を。

じっと、見つめている者がいることに、俺は気づいていた。

ツキナの手前、お互い何も言わなかったが。


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