神殺しのクロノスタシスⅢ
ツキナご満悦で、実戦訓練の授業を終え。

教室に戻ろうとしていたところ。

「…花曇すぐりさん」

「…」

…背後から、声を掛けられた。

気配を感じなかった。

そういう点は、さすがだと思うよ。

「…ナジュ・アンブローシア…先生」

「…こっち向いてくださいよ。『先生』と話してるんだから」

…。

俺は、一つ深呼吸をして、振り向いた。

ナジュ・アンブローシア。読心魔法の使い手が、俺の目を…心を…覗き見ていた。

「何か用?」

「いえ?ちょっと聞こうと思っただけです」

「何を?」

「ツキナ・クロストレイ」

…ツキナ?

「彼女にあの戦術教えたの、あなたでしょう?」

…ツキナの心を読んで知ったのか。

「そうだけど。それが何?卑怯だとでも思った?」

元暗殺者が…一生徒に、対人戦のアドバイスをするなんて。

「いいえ?別に。いかにもあなたが考えた戦術のような気がしたから」

「…」

「それに最近、彼女と仲良いみたいじゃないですか。放課後に長年の宿敵と顔を会わせるより、仲良しのクラスメイトと放課後練習してる方が楽しいですか?」

「…嫌みでも言ってるつもりなのかな」

「まさか。青春してて良いじゃないですか。僕は応援してるんですよ」

「…」

「僕自身は、全然青春なんて楽しむ余裕のない人生だったし。今まで血の色しか知らなかったあなた方が、学生らしい青春を満喫してるのなら、僕はそれで良いと思います」

…あ、そ。

「だったら、いちいち話しかけなくても良くない?放っておいてよ」

詮索されるなんてまっぴらだ。

特に、この男には。

「あぁ、ごめんなさい。別に邪魔してるつもりはなかったんですよ。存分に楽しんでください」

「話はそれだけ?なら俺はもう行くけど」

「えぇ、それだけです。どうぞ、次の授業に」

俺はナジュ・アンブローシア「先生」に背を向け、その場を立ち去った。

何度やっても、慣れない。

心の中を、見透かされるっていうのは。

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