神殺しのクロノスタシスⅢ
…朝礼が終わり、教室に戻ってから。

「な、やっぱり新しい先生が来ただろ?」

嬉しそうに、クラスメイトが話しかけてきた。

「…そうだね」

僕は知ってたけどね。

「しかし、養護教員か~」

「保健室の先生ってことだよね」

「しかも、結構イケメンだったし」

「私、かなりタイプかも…」

「えー。それでもやっぱり、私はナジュ先生の方が好きだな~」

と、下世話な話をする女子生徒達。

繁殖期なんだろう。

顔は良いとして、あいつ読心野郎だから、あまり関り合いにならない方が良いと思うけど。

「それにしても、保健室の先生なのかぁ…。保健室の先生なら、あまり会う機会ないね」

怪我や病気でもしない限り、医務室には用事がないからな。

「でもさ、回復魔法の授業も担当するって言ってたじゃん」

「あ、そうか」

「じゃあそのときに会えるね!楽しみ~」

「優しい先生だと良いね」

優しい先生だと思うよ。

僕が見た限りでは。

「…令月君?」

「…はい?」

クラスメイトに話しかけられて、僕はハッとした。

僕としたことが。ボーッとしてた。

「大丈夫?さっきから黙ってるけど…」

「あ、いや…」

「もしかして、あの先生嫌いなの?」

そういう訳では。

どうしよう。下手に黙ってたら、逆に不自然なんだっけ。

ここは嘘でも、喜んでる振りをしておかなくては。

「ううん。ただ僕、回復魔法苦手だから。赤点取ったとき、どうやって補習から逃げようか考えてただけ」

「あはは!何それ~!」

「あのなぁ~、令月。補習からは逃げるなよ~」

クラスメイトは、どっと笑った。

ジョークを言ったつもりはなかったのだが。何故笑う?

すると、そのとき。

「はいはいおはようございま~す。皆の人気者、ナジュ先生の風魔法の授業が始まりますよ~」

イーニシュフェルト魔導学院の、数少ない生身の教師の一人。

件の読心野郎、改め不死身君、改めルーチェス・ナジュ・アンブローシア先生が、教室に入ってきた。

自分を人気者だと自覚しているらしい。

良かった。

何にせよ、この場を切り抜けられたのだから。

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