神殺しのクロノスタシスⅢ
覚えているだろうか。

令月が約束を破って、勝手に単独行動したあの日。

間一髪で助けに入り、すぐりを拘束したところ。

すぐりは、「暗殺者は二人いる」と言った。

一人目のすぐりは、今こうしてここにいる。

だが、もう一人は?

諦めて、ジャマ王国に帰った?

そんなはずがないだろう。

もしかしたら、今この瞬間も、令月の命を狙って、学院の近くに潜伏しているかもしれないのだ。

それを思うと、あまり悠長にはしていられない。

故に。

こうしてすぐりを呼び出し、そのもう一人の暗殺者について、対策を立てようという趣旨で、この会議を開いた。

休日返上でな。

だからまぁ…何と言うか。

あまり気は進まないが。

「話してくれないかなぁ、すぐり君…。君と一緒に来た、もう一人の暗殺者って子について…」

シルナが、申し訳なさそうに尋ねた。

そりゃそうだ。

すぐりにとっては、「かつての仲間を売れ」と言ってるのと同義なのだから。

「あのね、どうしても嫌だったら別に…」

「…話してもいーよ」

え。

意外と、あっさりだった。

「だけど、条件がある」

…条件?

「な、何?おはぎ全部食べたいとか?良いよ!」

少なくとも、おはぎではないだろう。

馬鹿か。

「『八千代』を、この場から蹴飛ばして」

「…」

すぐりの「条件」は、予想以上に冷徹だった。

…そうか。

そんなに視界に入れたくないか。

「…僕、邪魔?」

首を傾げる令月。

ごめんな。お前は何も悪くない。

しかし、すぐりは容赦ない。

「うん邪魔だね~。君がいると、俺の精神衛生上ものすっごく良くない。どうせ『八千代』には知らない話だし、可及的速やかに去って欲しい。必要なら、あとで何話したのか学院長にでも聞きなよ」

「分かった。帰る」

…本当ごめんな。

おはぎ、何ならお前に全部あげるよ。

「令月…。ごめん」

呼び出しておきながら、開幕「邪魔だから帰れ」とは。

しかし。

「それで『八千歳』が話す気になるんなら良いよ。僕はあとで聞くから」

「…分かった。本当ごめんな」

「それに、自分の命を狙ってる人の話はあんまり聞きたくないし…」

…そうか。

「令月君おはぎ!おはぎお土産に持って帰って!おはぎあげるからほら」

「ありがと」

シルナが、お土産におはぎを持たせていた。

うん、それで良い。

おはぎ食べながら待っててくれ。

「…あと、そこの読心魔法使いも、気持ち悪いからどっか行って欲しいけど…」

すぐりは、じろりとナジュを睨んだが。

「あ、僕は無理です。あなたが言ってることが本当なのか嘘なのか、確かめるのが僕の役割なんで」

ナジュは、けろっとしてそう答えた。

…そりゃまぁそうなんだけど、そんなあからさまに「今からお前の心を読むぜ!」宣言されたらなぁ。

喋る気も失せるよなぁ。

「…いーよ。君が必須なことは分かってるし。ナジュせんせーはいても良い」

「ありがとうございます」

「でも『八千代』は消えろ」

「分かった」

切ない。

こんなに冷遇されたのに、令月は少しも嫌な顔をすることなく、てこてこと学院長室を出ていった。

不憫な奴だよ。
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