神殺しのクロノスタシスⅢ
…さて、令月が去り。

部屋からいなくなると。

「あー空気が美味しい。『八千代』がいなくなると、世界が明るく見えるなー」

この、解放感に満ち溢れた顔。

別人格じゃないかと思うほどだよ。

「さーて、それで?俺に何が聞きたいんだっけ?何でも答えてあげるよ。俺に答えられることなら、だけど」

「えっと…。本当に良いの?仲間を売ることに…」

「仲間を売るのは、捕虜の役目でしょ?」

捕虜って…。

「…君を捕虜にしたつもりは、ないんだけどな。私達は」

シルナが、静かに言った。

「そーなの?でも俺はそういう意味だと思ってたよ。『八千代』の命を狙いに来たのに、学院で大事に飼ってもらってるのも、拷問を受けずに済んでるのも、全部俺に、仲間を売らせる為なんだとばかり」

「そんなつもりはないから、言いたくないと思ったことは、何も言わなくて良いよ」

「何言ってんの~?読心魔法の使い手を同席させてる時点で、話したいことも話したくないことも、話させる気満々じゃん」

へらへらと笑ってみせるすぐり。

それは…。

「なら、この際ナジュさんには、黙っていてもらいましょう。余計なことを言わないように」

との、イレースの提案。

「え。僕口封じですか?」

「そうです。嘘をついてるときだけ言ってください。それ以外の、『すぐりさんが話したくない情報』については、黙っていてもらえば…」

「えー。それじゃ何も面白くないじゃないですか」

元々面白い話じゃねぇよ。

すると。

「あはは。気を遣ってくれてどうも。でも、別にナジュ先生がだんまりする必要はないよ」

すぐりが、机に肘をついて言った。

「聞いて良いよ、何でも。知ってることなら何でも答えてあげるからさ」

「…すぐり…」

「君達は優し過ぎるんだよ。『良いからとっとと喋れ』って一言脅せば良いだけなのにさ」

…そんなことをしたくないから、シルナがわざわざおはぎまで買ってきて、懐柔しようとしてるんだろ。

「あのね、すぐり君。私達は…」

「別に良いじゃないですか。本人が話したいって言ってるんだから、そんなに気を遣わなくても」

ナジュが、シルナの言葉を遮った。

珍しく、真面目な目付きだった。

「だんまりされるより余程良い。この人達は、子供の顔して中身は子供じゃないんだから、容赦をする必要はない」

「良いこと言うね~。さすが、元『カタストロフィ』のスパイは、言うことが違うよ」

「そうでしょう?同じ立場だったから分かるんですよ。白々しいこと言ってないで、さっさと始めましょう」

…。

…殺伐としてんなぁ。

ナジュとすぐりは、軽い睨み合いみたいになってるし。

俺でさえ、嫌な気分なのに。

シルナなんか、もうあわあわし始めてるよ。

平然としてるのはイレースくらいだ。

その鋼のメンタル、俺にも分けてくれよ。

…だが、ナジュの言う通りだな。

令月もそうだが、元『アメノミコト』の暗殺者は。

見た目は子供でも、中身は子供じゃない。

かといって、大人でもない。

そのように育てられたのだ。

だったら、その流儀に従うべきか。

「…分かった。じゃあ、前置きなしに聞くよ」

シルナも、渋々腹を決めたようで。

「…君と一緒に来た、もう一人の暗殺者っていうのは、誰?」

いきなり、問題の核心をつく質問をした。


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