神殺しのクロノスタシスⅢ
ここ数日、考え、そして僕は決めた。

ジャマ王国に一時帰国し、状況を報告…つまり、『八千歳』も裏切り者になったこと…を、頭領様に報告しても良かった。

その上で、再び裏切り者を粛清する為の暗殺者を増員してもらうべきかもしれない、と。

だが、その選択肢は、すぐに切り捨てた。

僕は頭領様から、「裏切り者の『八千代』を殺せ」との命令を受けて、出国したのだ。

いかなる理由があったとしても、その任務を果たさず、頭領様の前にのこのこ帰る訳にはいかない。

任務を果たせない暗殺者など、裏切り者とさして変わらない。

任務を果たせなかったと言うことは、頭領様の期待を裏切ったも同然。

つまり、僕も裏切り者とみなされる。

任務を果たせず、やったことと言えば、判断を間違えて裏切り者を増やしたことだけ。

そんなみっともない「成果」だけを残して、頭領様の前には帰れない。

帰るのなら、任務を果たしてから。

最低でも、『八千代』を殺してからだ。

それに…と、僕は考える。

ジャマ王国とルーデュニア聖王国との国境は、いつにも増して警備が強化されている。

そうみだりに、国境付近を彷徨く訳にはいかない。

故に。

僕は考える。この状況で、最適な解決法を。

『八千歳』を失ったのは痛い。元々共闘には向いてない性格だったが、それでも仲間を失うのは痛かった。

僕の立てた計画では、一人で行うより、二人で行った方がより効果的だったから。

一人に何かあっても、もう一人が人質を殺すなり脅すなりすれば、学院側の教員達の足止めが出来た。

でも、もうその選択肢は消えた。

僕は一人なのだ。一人で、任務を果たさなければならない。

黒月令月、『八千代』を殺す。

…だけではない。

もう一人の裏切り者、『八千歳』も殺す。

しばしの間考えて、僕はそう決めた。

二兎追う者は一兎も得ず、と言うが。

二兎追って、殺さなければ、多分僕が殺される。

あの頭領様なら、そうするだろう。

だって、『八千歳』を敵の手に落とし、裏切り者にさせたのは、パートナーだった僕の責任だ。

『八千代』との一騎討ちなどさせず、最初から堅実な方法を取るべきだった。

僕は、判断を誤った。

『八千歳』の裏切りは、僕に起因する。

頭領様なら、きっとそう判断する。裏切り者が増えてしまった以上、結局はいつか、『八千歳』も殺さなければならないのだ。

なら、『八千代』と一緒に殺す。

自分のミスは自分でツケを払い、そして当初の任務も果たす。

『八千代』と『八千歳』、二人の裏切り者の首を切り落とす。

それが、僕に課せられた新しい任務だ。

どちらか一方しか果たせない、ましてやどちらも果たせず、のこのこ帰ろうものなら。

粛清されるのは、僕だ。

頭領様ならそうする。僕はいつだって、『終日組』でそういう場面を見てきた。

判断を間違え、ミスをした者の末路を。

僕は、ああはならない。

どうするのが最適か、どうするのが正解なのか、常に考えて、考えて、行動する。

そうやって、僕は生きてきた。

僕が今に至るまで、あの暗殺集団の中で生きてこられたのは。

いつだって、この「判断」を間違えなかったからだ。
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