神殺しのクロノスタシスⅢ
僕は。

まだ三歳か四歳かそこらのときに、貧困の為に親に売られた。

二束三文の値段で、家族に手放された。

そのときのことは、まだ記憶に残っている。

悲しくはなかった。

家族が飢えているのは事実だった。

両親に頼まれた。自分達の為に売られてくれ、と。

幼いながらに、自分が何とかしなければ、と思ったのも覚えている。

だが、両親は僕を売る為に、嘘をついた。

「この家を出て、新しい家に行ったら、毎日お腹一杯食べられて、幸せに暮らせるから」と。

全くの嘘。

確かに、そういう家に売られる子供だっている。

だが、それは砂漠の中の、一握りの砂のような数でしかない。

僕のような、貧困層に生まれたゴミのような命。

そんな子供が、まともな家に売られるはずがない。

僕は、きっとこの飢えから、苦しみから解放される。

その為には両親と離れなければならないけど、それは家族を守る為に仕方ない。

そう信じ込まされて、売りに出された。

そして、現実を知ったのだ。

そんな夢物語など、この場所には何処にもないのだと。

僕は、判断を間違った。

あっさりと両親家族に騙され、自分から地獄に足を踏み入れてしまった。

でもそれは、家族も同じだった。

後で聞いた話だ。

僕を売った家族は、手にした二束三文の金で、闇ルートで薬物を斡旋する仕事を始めたらしい。

だが、そんな危ない仕事は、長く続かなかった。

結局、闇の仕事を始めてすぐ、マフィアに…『アメノミコト』に…目をつけられ。

一夜の間に、家族は一人残らず、惨殺死体で見つかったそうだ。

皮肉な話だ。

両親は、息子を売りに出し、結局はその息子が売られていった組織に殺されたのだ。

まぁ、両親は僕が『アメノミコト』に買われたことは知らなかっただろうが。

あくまで、人身売買商人に、僕を突き出しただけだ。

だが、それが回り回って、自分達の首を絞めることになった。

判断を間違えたのだ。

愚かな人間達だ。

僕が生まれた世界、僕が入った組織は、そういうところだった。

無駄な感情を抱き、判断を間違えた者から死んでいく。

…僕は思い出した。

正しい判断、正しい選択を求められる度に、僕は思い出す。

一人の少女…キエルという名の、僕と同い年の少女のことを。
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