神殺しのクロノスタシスⅢ
もう、いちいち言うまでもないだろう。
どんなに僕達が、大切に生きようと誓ったところで。
現実は残酷だ。
僕は、僕達は、判断を間違えた。
いずれ失われると分かっている希望に、すがりつくという愚行を犯した。
その報いは、遠からずやって来た。
あの日の試験、僕の対戦相手は、キエルだった。
対戦相手を知らされたとき、僕はとうとう、「来るべきものが来た」と思った。
いつか、こうなることは分かっていた。
同級生の中で、生き延びられるのは一人だけ。
今月を何とか生き延びられても、来月生き残るかは分からない。お互いに。
そして僕達は、まるで運命のように、互いの対戦相手になった。
あるいはもしかしたら、「先生達」がわざと、僕らを対戦相手にしたのかもしれない。
僕達が友情を育んでいることを知って。
僕達が、暗殺者に必要のない「感情」を抱き始めていることを知って。
そんな甘い幻想を、完膚なきまでに切り裂く為に。
僕はそのとき、本当に死を覚悟した。
キエルは、強かったから。
彼女には、「蟲毒の試験」最後の一人になれる素質があった。
僕よりずっと魔導適性が強くて、体術にも優れていた。
訓練で何度か彼女と戦ったこともあったが、僕は彼女に勝てたことは一度もなかった。
だから、この試合でどちらが勝つかなんて、言うまでもなかった。
でも、これはいつもの訓練ではない。
とどめを刺す、すんでのところでストップが掛かる、いつもの訓練じゃない。
とどめを刺すまで終わらない、本物の殺し合い。
僕達は互いに、顔面蒼白で、頭を空っぽにして戦った。
僕にキエルを殺す勇気があったのかは分からない。
覚えてない。
ただ、目の前にいる「敵」が、自分にとって唯一の友達で、命の恩人であるのだという事実を。
必死に、必死に否定しようとして。でも頭の中では、それは紛れもない事実なのだと理解していて。
本能的に身体を動かして、魔法を使ってはいたけれど。
それは無意識の行動で、戦術も糞もなかった。
キエルもまた、そうだったに違いない。
そして。
決着は、あっさりとついた。
僕は一度も、訓練でキエルに勝てたことはなかった。
訓練でも勝てないのに、頭の中真っ白で、本番の試験で、勝てるはずがなかった。
気がついたら、僕の手に武器は何一つなく。
キエルが、僕の上に馬乗りになっていて。
キエルの手には、小刀が握られていた。
その切っ先は、真っ直ぐに僕の喉元に向いていた。
…あぁ、終わったと思った。
同時に、安心した。
僕はここで死ぬが、代わりにキエルは生き残る。
キエルの才能なら、きっと「蟲毒の試験」の最後の一人に残れるだろう。
僕の分も、彼女が生きてくれる。
一日一秒を、噛み締めるように。
僕の死を乗り越えて、キエルは生きていくのだ。
そう思うと…悪くなかった。
自分の人生に、意味が生まれたような気がした。
しかし。
…そうは、ならなかった。
キエルがすんでのところで…判断を間違えたからだ。
「…む、無理だよ…」
「…?」
キエルは、小刀を取り落とした。
泣きじゃくり、僕の上に馬乗りになったまま、両手で顔を押さえた。
「無理だ…。君を殺すなんて、私には出来な、」
そこまでだった。
キエルの命は、そこまでだった。
僕の目の前で、キエルの頭部が吹き飛ばされた。
どんなに僕達が、大切に生きようと誓ったところで。
現実は残酷だ。
僕は、僕達は、判断を間違えた。
いずれ失われると分かっている希望に、すがりつくという愚行を犯した。
その報いは、遠からずやって来た。
あの日の試験、僕の対戦相手は、キエルだった。
対戦相手を知らされたとき、僕はとうとう、「来るべきものが来た」と思った。
いつか、こうなることは分かっていた。
同級生の中で、生き延びられるのは一人だけ。
今月を何とか生き延びられても、来月生き残るかは分からない。お互いに。
そして僕達は、まるで運命のように、互いの対戦相手になった。
あるいはもしかしたら、「先生達」がわざと、僕らを対戦相手にしたのかもしれない。
僕達が友情を育んでいることを知って。
僕達が、暗殺者に必要のない「感情」を抱き始めていることを知って。
そんな甘い幻想を、完膚なきまでに切り裂く為に。
僕はそのとき、本当に死を覚悟した。
キエルは、強かったから。
彼女には、「蟲毒の試験」最後の一人になれる素質があった。
僕よりずっと魔導適性が強くて、体術にも優れていた。
訓練で何度か彼女と戦ったこともあったが、僕は彼女に勝てたことは一度もなかった。
だから、この試合でどちらが勝つかなんて、言うまでもなかった。
でも、これはいつもの訓練ではない。
とどめを刺す、すんでのところでストップが掛かる、いつもの訓練じゃない。
とどめを刺すまで終わらない、本物の殺し合い。
僕達は互いに、顔面蒼白で、頭を空っぽにして戦った。
僕にキエルを殺す勇気があったのかは分からない。
覚えてない。
ただ、目の前にいる「敵」が、自分にとって唯一の友達で、命の恩人であるのだという事実を。
必死に、必死に否定しようとして。でも頭の中では、それは紛れもない事実なのだと理解していて。
本能的に身体を動かして、魔法を使ってはいたけれど。
それは無意識の行動で、戦術も糞もなかった。
キエルもまた、そうだったに違いない。
そして。
決着は、あっさりとついた。
僕は一度も、訓練でキエルに勝てたことはなかった。
訓練でも勝てないのに、頭の中真っ白で、本番の試験で、勝てるはずがなかった。
気がついたら、僕の手に武器は何一つなく。
キエルが、僕の上に馬乗りになっていて。
キエルの手には、小刀が握られていた。
その切っ先は、真っ直ぐに僕の喉元に向いていた。
…あぁ、終わったと思った。
同時に、安心した。
僕はここで死ぬが、代わりにキエルは生き残る。
キエルの才能なら、きっと「蟲毒の試験」の最後の一人に残れるだろう。
僕の分も、彼女が生きてくれる。
一日一秒を、噛み締めるように。
僕の死を乗り越えて、キエルは生きていくのだ。
そう思うと…悪くなかった。
自分の人生に、意味が生まれたような気がした。
しかし。
…そうは、ならなかった。
キエルがすんでのところで…判断を間違えたからだ。
「…む、無理だよ…」
「…?」
キエルは、小刀を取り落とした。
泣きじゃくり、僕の上に馬乗りになったまま、両手で顔を押さえた。
「無理だ…。君を殺すなんて、私には出来な、」
そこまでだった。
キエルの命は、そこまでだった。
僕の目の前で、キエルの頭部が吹き飛ばされた。