神殺しのクロノスタシスⅢ
…試験監督だった。

試験監督が、風魔法の刃で、キエルの首を撥ね飛ばしたのだ。

キエルの生首が、生気を失った目が、虚ろに虚空を眺めていた。

僕はキエルの返り血を全身に浴びながら、ただ呆然としていた。

目の前で起きたことが、信じられなかった。

しかし。

試験監督は、無情だった。

「×××番、戦意なしと判断。反則とみなし、不戦勝として、×××番を勝者とする」

「…」

僕は、勝った。

キエルが負けて、僕が勝った。

キエルから戦意がなくなった時点で、試験監督はキエルを「敗北した」と判断したのだ。

そして、その判断は正しかった。

すんでのところで、感情に流されて人を殺せない暗殺者など、暗殺者と呼ぶこともおこがましい。

こうして、僕はキエルを殺すことなく、勝ち残った。

キエルは勝負に勝ったのに、殺し合いに負けて、死んだ。

そして何故だが、キエルの代わりに、僕が最後の一人になった。

死んだキエルの為に、僕がキエルの分まで生きようと思ったから?

生きることが、キエルに対する罪滅ぼしになると思ったから?

違う。

僕は、己のやるべきことを再確認しただけだ。

考えるべき、決断を下すべきときに、正しい判断をしなければならないのだと。

キエルは、判断を間違えた。

いくら強くても、いざというとき判断を間違える者は、結局弱者だ。

淘汰されるべき人間に成り下がるのだ。

キエルが、そうだったように。

キエルは、判断を間違えた。

あのとき躊躇わず、僕を殺していれば良かった。

そうすれば、彼女は生き延びることが出来た。

彼女の実力なら、『終日組』に入ることも夢じゃなかったはずなのに。

たった一度、たったあの一瞬、判断を間違えたが為に。

未来も、命も、人生も、彼女の全てが終わった。

だから、僕は間違わないと決めた。

彼女は間違えた。だから死んだ。

でも僕は間違わない。だから生き延びる。

生き延びる為に、常に正しい判断を下す。

いつだって堅実に、冷静に、最適解を導き出す。

それが、『アメノミコト』親衛隊『終日組』所属。

『玉響』の、生き方だ。










「…行こう」

僕の判断が正しかったのだと、証明する為に。

生き延びる為に。


< 133 / 822 >

この作品をシェア

pagetop