神殺しのクロノスタシスⅢ
…僕は、改めて双眼鏡の先を見つめた。

…僕はこの数日間ずっと、観察を続けていた。

学院の放課後、二階にある講義室の一つ。

そこに、ターゲットである『八千代』を含め、彼の同級生であろう生徒達が集まり、授業が行われている。

黒板の板書を見るに、恐らく、補習授業なのだろう。

見たところ、その補習授業を担当している教師は、大した魔導師ではなさそうだ。

恐らく、学院長シルナ・エインリーの分身が、授業を行っているのだろう。

『八千代』には魔導適性が乏しかったと聞いている。補習授業が行われているなら、『八千代』が参加していることに不思議はない。

僕のターゲットは、二人。

一人が現場にいてくれるのなら、一人分の手間が省けて丁度良い。

あの場所に奇襲を仕掛け、すぐさまシルナ・エインリーの分身を殺す。

それから生徒を人質に取り、確実に『八千代』を仕留める。

その後に、人質の生徒一人に、『八千歳』を呼びに行かせる。

猶予は一分だ。それ以上は与えない。

考える隙を、余裕を、与えない。

見たところ補習授業に参加している生徒は、およそ30名。

30人も人質がいるなら、充分過ぎるほどだ。

まずは見せしめに、二、三人殺しても構わない。

人質の命など、何人奪っても構わない。

まずは『八千代』、『八千歳』の両名を殺す。

用が済めば、人質を二人ほど連れて、国境の安全地帯まで行く。

人質を連れてさえいれば、迂闊な手出しは出来ないはず。

最悪人質と引き離されたとしても、僕一人だけなら、どうとでも逃げられる。

夜になるまで何処かに潜伏して待ち、日が暮れたら夜の闇に紛れて、国境を越え、ジャマ王国に戻る。

これで任務完了だ。

僕の判断は正しい。これが最適解で、何も間違ってはいない。

僕はキエルや、『八千歳』とは違う。

感情に流され、判断を間違えたりはしない。

ただ任務に忠実に、常に正しい選択をするだけだ。

…やり遂げてみせる、必ず。

僕達暗殺者は、その為に生きている…その為だけに、生かされているのだから。


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