神殺しのクロノスタシスⅢ
僕は咄嗟に、懐に帯刀していた二本の小太刀に手を伸ばした。
しかし。
「…動かないでください」
「ひっ…」
窓際の席に座っていた女子生徒の首に、ピタリとクナイが当てられていた。
少しでも力を入れれば、彼女の頸動脈から血飛沫が飛ぶことだろう。
これでは、下手に動けない。
僕は小太刀を抜けなかった。
「…君は誰?」
僕は、窓から飛び込んできた暗殺者の名前を尋ねる。
「…」
しかし、相手は答えない。
僕は『終日組』の全ての暗殺者の顔と名前を知ってる訳じゃない。
僕が『アメノミコト』を出てから、もう半年以上にもなる。
もしかしたら、顔触れも変わっているのかもしれない。
だが…。
「…もしかして、君が『玉響』?」
「…喋りましたか。あの裏切り者…『八千歳』が」
…やっぱり、彼が『玉響』。
この人が。
まるで隙がない。人質を取りながらも、常に周囲を警戒しているのが分かる。
「そのまま動かないでください。喋らないでください。従わないなら…」
「…!待って!」
僕が、叫ぶ暇もなかった。
小太刀を抜いて、助けに入る暇なんてあるはずがない。
一瞬にして、人質にされた女子生徒の首から、血飛沫が飛んだ。
クラス中に、生徒達の悲鳴が響き渡った。
「…こうなりたくないでしょう?」
『玉響』は、大量の返り血を浴びながら、冷たい声で言った。
…嫌な声音だ。
僕にとって、嫌な過去を思い出させる冷たい声音…。
「…それから」
「!まっ…」
ついでとばかりに、『玉響』は素早くクナイを投擲した。
狙いは、教壇の上に立っていた、学院長の分身。
分身の首にクナイが刺さった。
勿論クナイには、毒が塗られている。
学院長の分身は、声もなく、どろどろと崩れ。
跡形もなく、消え去った。
そのことにまた、生徒達が悲鳴をあげた。
たった一分にも満たない間に、いきなり知らない人間が教室に飛び込んできて。
そして、目の前の人間が二人も死んだのだ。
動揺しない訳がない。
恐怖しない訳がない。
誰もが怯え、震えていた。
それなのに、『玉響』は容赦なかった。
「い、嫌っ!やめて!」
「暴れると殺しますよ」
「ひっ…!」
またしても、近くにいた女子生徒の襟首を掴んで立たせ。
先程と同じように、首筋にクナイを当てた。
いつでも殺せる態勢。
一部の隙もない。
「あなたもですよ、動かないでくださいね…裏切り者、黒月令月」
「…!」
…やはり、狙いは僕なのか。
当たり前だ。
『アメノミコト』は、裏切り者を決して許さない。
地の果てまで追い掛けていって、必ず首を獲る…。
「小太刀を捨てて、両手をあげてください。さもなくば…」
「…分かった。従う。従うからその子は離して」
「あなたが動くのが先です」
…だろうね。
これ以上、犠牲を出す訳にはいかない。
僕は『玉響』の要求通り、二本の小太刀を床に捨て、両手が見えるように高く上げた。
すると。
『玉響』は、懐から小刀を取り出し、こちらに放った。
僕の足元に、からん、と小刀が落ちた。
「それで自決してください」
「…!」
「期限は一分。一分以内にあなたが自決しないと、人質を一人殺します。二分過ぎれば二人、三分過ぎれば三人です」
「…」
…やはり。
「勝手に助けを呼んだり、横槍が入っても同じです。これ以上人質を死なせたくないなら、あなた一人の死で全てを終わらせてください」
「…」
…『玉響』。
君は、完璧だよ。
最初からそんな手段で、そんな最適な手口で殺しに来られたら…僕達も、為す術がなかったかもしれない。
…けれど。
「…良いよ、どうぞ」
「…?何を」
「人質、殺したいんでしょ?どうぞ。好きなだけ殺して良いよ」
「…!?」
常に冷静で、いつでも何処でも、正しい選択を選ぶことが出来る。
それが、君の強み。
だから。
…僕達は、それを利用させてもらった。
しかし。
「…動かないでください」
「ひっ…」
窓際の席に座っていた女子生徒の首に、ピタリとクナイが当てられていた。
少しでも力を入れれば、彼女の頸動脈から血飛沫が飛ぶことだろう。
これでは、下手に動けない。
僕は小太刀を抜けなかった。
「…君は誰?」
僕は、窓から飛び込んできた暗殺者の名前を尋ねる。
「…」
しかし、相手は答えない。
僕は『終日組』の全ての暗殺者の顔と名前を知ってる訳じゃない。
僕が『アメノミコト』を出てから、もう半年以上にもなる。
もしかしたら、顔触れも変わっているのかもしれない。
だが…。
「…もしかして、君が『玉響』?」
「…喋りましたか。あの裏切り者…『八千歳』が」
…やっぱり、彼が『玉響』。
この人が。
まるで隙がない。人質を取りながらも、常に周囲を警戒しているのが分かる。
「そのまま動かないでください。喋らないでください。従わないなら…」
「…!待って!」
僕が、叫ぶ暇もなかった。
小太刀を抜いて、助けに入る暇なんてあるはずがない。
一瞬にして、人質にされた女子生徒の首から、血飛沫が飛んだ。
クラス中に、生徒達の悲鳴が響き渡った。
「…こうなりたくないでしょう?」
『玉響』は、大量の返り血を浴びながら、冷たい声で言った。
…嫌な声音だ。
僕にとって、嫌な過去を思い出させる冷たい声音…。
「…それから」
「!まっ…」
ついでとばかりに、『玉響』は素早くクナイを投擲した。
狙いは、教壇の上に立っていた、学院長の分身。
分身の首にクナイが刺さった。
勿論クナイには、毒が塗られている。
学院長の分身は、声もなく、どろどろと崩れ。
跡形もなく、消え去った。
そのことにまた、生徒達が悲鳴をあげた。
たった一分にも満たない間に、いきなり知らない人間が教室に飛び込んできて。
そして、目の前の人間が二人も死んだのだ。
動揺しない訳がない。
恐怖しない訳がない。
誰もが怯え、震えていた。
それなのに、『玉響』は容赦なかった。
「い、嫌っ!やめて!」
「暴れると殺しますよ」
「ひっ…!」
またしても、近くにいた女子生徒の襟首を掴んで立たせ。
先程と同じように、首筋にクナイを当てた。
いつでも殺せる態勢。
一部の隙もない。
「あなたもですよ、動かないでくださいね…裏切り者、黒月令月」
「…!」
…やはり、狙いは僕なのか。
当たり前だ。
『アメノミコト』は、裏切り者を決して許さない。
地の果てまで追い掛けていって、必ず首を獲る…。
「小太刀を捨てて、両手をあげてください。さもなくば…」
「…分かった。従う。従うからその子は離して」
「あなたが動くのが先です」
…だろうね。
これ以上、犠牲を出す訳にはいかない。
僕は『玉響』の要求通り、二本の小太刀を床に捨て、両手が見えるように高く上げた。
すると。
『玉響』は、懐から小刀を取り出し、こちらに放った。
僕の足元に、からん、と小刀が落ちた。
「それで自決してください」
「…!」
「期限は一分。一分以内にあなたが自決しないと、人質を一人殺します。二分過ぎれば二人、三分過ぎれば三人です」
「…」
…やはり。
「勝手に助けを呼んだり、横槍が入っても同じです。これ以上人質を死なせたくないなら、あなた一人の死で全てを終わらせてください」
「…」
…『玉響』。
君は、完璧だよ。
最初からそんな手段で、そんな最適な手口で殺しに来られたら…僕達も、為す術がなかったかもしれない。
…けれど。
「…良いよ、どうぞ」
「…?何を」
「人質、殺したいんでしょ?どうぞ。好きなだけ殺して良いよ」
「…!?」
常に冷静で、いつでも何処でも、正しい選択を選ぶことが出来る。
それが、君の強み。
だから。
…僕達は、それを利用させてもらった。