神殺しのクロノスタシスⅢ
─────…自分達で、立てた作戦ながら。



この『玉響』君が、可哀想で仕方ない。

一端の黒装束をまとっているが、顔はあどけなくて、令月やすぐりと大して変わらない。

まだ少年じゃないか。

そんな少年が、ここまで合理的で、完璧な作戦を仕掛けてきたのだと思うと、寒気がする。

イレースの言う通りだ。

俺達の方も、一歩間違えれば、危ないところだった。

これが、本物の生徒質がいる教室だったなら。

俺達は今頃、顔面蒼白で、必死に『玉響』に交渉を持ち掛けていただろうから。

「君が手堅い作戦を立てる子だったっていうのは、すぐり君…あ、えーと、『八千歳』君から聞いてたんだ」

「…!」

「『八千歳』君が寝返った時点で、君が作戦を変えて来る可能性は充分あった。でも…君ならきっと、私達にとって一番嫌な…手堅い作戦を変えないと思った。実際、こうするのが一番、私達には効果的だからね」

「あ、実は僕もそれやったことあるんで。経験済みです」

と、何故かちょっと嬉しそうなナジュ。

そういえば、お前も正体をバラしたとき、クラスメイトを人質に取ったっけな。

嫌な記憶を思い出させるな、馬鹿。

あのときだって、天音が介入してくれてなかったら危なかったんだぞ。

「正解だよ、『玉響』君。君は間違っていなかった。正しい判断をした…。だから、私達はそれを逆手に取った」

「…!」

「令月君一人だけが本体で、あとは全部私の作った偽物の生徒。毎日同じ時間に、ターゲットと人質になる生徒達が集まっていたら、当然そこを狙いに来るよね」

「…」

『玉響』は、愕然としていた。

自分が奇襲を掛けるつもりが。

実は、まんまと罠に引っ掛かっていただけだったのだ。

「ごめんね。これで君は任務に失敗した…。でも、私も…生徒を、令月君やすぐり君を、守らなきゃならなかったんだ」

「…」

その為に『玉響』を謀って、罠に嵌めた。

人質がいない以上、『玉響』がいくら一人で抗ったところで、どうにもならない。

しかも。

「お、自決しようとしてますね。早いところ捕らえてください」

任務に失敗し、自決しようとしても。

ナジュに心を読まれ、それも阻止される。

俺は自決される前に、時魔法で『玉響』の時間を止め。

その間に、シルナが例の光の枷で、『玉響』を拘束した。

任務に失敗したからって、自決される訳にはいかない。

こんな、まだあどけない小さな命が。

こんな、下らないことで失われて良いはずがないのだから。
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