神殺しのクロノスタシスⅢ
─────…『八千歳』が。

ここまでしてくるとは思わなかった。

ここまでして、任務達成にこだわるなんて。

いや、気づけなかった僕が悪い。

だって、『八千歳』はずっと僕を嫌ってた。

僕をずっと目の敵にしていた。

そして、何よりも…。

「こんなことしても無駄だ!」

僕は、『八千歳』に向かって叫んだ。

『八千歳』が何より大切にしていたことを、僕は知っていた。

「君は僕と一騎討ちして、そして殺せなかった!負けたんだ!一度負けた以上、今更僕を殺したところで、君は任務に失敗したとみなされる!頭領に認めてなんかもらえない!」

頭領に、認められること。

あの男に認められ、僕より上だと証明すること。

あの男のお気に入りになること。

『八千歳』は、その為に手段を選ばない人間だった。

どうして僕は…そのことを失念していたんだ。

「僕を殺して帰ったって、学院長を殺して帰ったって、頭領は認めてくれないよ。任務に失敗したって言われて、殺される。君の代わりはいくらでもいるんだ!」

「知ってるよ?」

「…!」

相変わらず、『八千歳』は微笑んでいた。

死ぬことも、認められないことも、何もかも覚悟している笑顔だった。

「言ったでしょ?俺はもう負けたんだ。あの日、『八千代』に一騎討ちを仕掛けて、俺は負けた。その時点で、俺は死んだんだよ。ここにいるのは屍だ。今更誰を殺して帰ったって、頭領様は俺を認めてくれない。役立たずと罵って粛清するだろうね」

「それが分かってるなら…どうして…」

「どうして?どうしてって、君がそれを聞くの?」

…え?

「俺達は暗殺者。人を殺すことしか能がない。だから人を殺すんだよ。他に何も出来ないからね。そういう運命なんだよ」

「…それは」

かつて僕も…同じことを考えていた。

だけど今は…。今は。

「そんなことはない。すぐり君」

学院長だった。

シルナ学院長が、きっぱりとそう言った。

「君達は確かに人を殺すことが出来る。それが一番得意だと言っても良いだろう。だけど逆に、その力で人を守ることも出来る。君達は人を殺す為の道具なんかじゃ…」

「…分かってない。何も分かってないね~」

「…すぐり君?」

「平和な人間の言う台詞だよね。何も分かってない。居るんだよ?俺みたいな…生まれつきのサイコパスだって」

生まれつきの…。

生まれつきって、それはどういう…。

「俺はさー、『八千代』や『玉響』みたいに、買われて『アメノミコト』に入った訳じゃないんだ。自分から入ったんだ。スカウトされたんだよ」

「…え?」

「良い機会だね、『八千代』。教えてあげようか。俺がどんな人間だか」

そう言って。

『八千歳』は、昔語りを始めた。
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