神殺しのクロノスタシスⅢ
─────…俺が初めて人を殺したのは、いつだと思う?

『アメノミコト』に入ってから?

残念。大外れ。

それより前に、俺は人を殺してたんだ。

家族をね。

父親、母親、それから弟の三人を殺した。

包丁で滅多刺し。

何で殺したと思う?

邪魔だったんだよね。俺が生きる為に。

ろくでもない両親だったよ。

まぁ、ジャマ王国の貧民街では、特に珍しくもないんだけど。

俺と弟を、毎日虐待して育てるような親だった。

ただでさえ乏しい食糧を、自分達だけで独占して、俺達兄弟には水しか与えないような親。

水だけでも、与えてもらえた日は幸せだよね。

仕方ないから、ドブに湧いてるミミズやネズミを取って食べてた。

その上で、蹴ったり殴ったりされながら暮らしてたんだよ?

そんな毎日で、生きていられる訳ないよね。

だから俺、壊れた。

六歳か七歳のときだったかな。

親が寝てる間に、包丁で刺して殺しちゃった。

簡単だったよ。

二人共、二、三回刺したら動かなくなっちゃって。

それでもまだ息があるみたいだったから、完全に死ぬまで何回も何回も刺して。

そしたら、すっきりした。

これでもう、この両親とかいう気持ち悪い生き物に、殴られたり蹴られたりすることはないんだって思うと。

嬉しかったよね。単純に。

それから、弟。

両親のついでに、弟も殺しちゃった。

何でかって?

邪魔だと思ったからだよ。

親がいなくなったんだから、弟が生きてたら、俺が守ってやらなきゃいけないじゃん?

俺一人が生きていくのも大変なのに、弟の面倒なんて見てられない。

これでも俺は、両親を殺すまで、弟の面倒をよく見てやってたんだよ。

俺と違って、魔導適性もなかったからね、弟は。

いつも守ってやって。食べ物を与えてやって。

でも、もう限界だったんだ。

これまでも散々、弟を守る為に頑張ったのに。

これからもずっと、守ってやらなきゃいけないんだって思うと。

心が壊れそうにもなるでしょ?

俺は今まで散々我慢してきたんだから、もう我慢しない。

だから殺した。

あ、弟は楽に殺してあげたよ。両親みたいに滅多刺しにはしなかった。

寝てる間に、首を一気に掻き切ってあげたんだ。

散々守ってもらって、死ぬときは安らかに一瞬で死ねたんだから、弟は幸せ者だよね。

何も感じなかったよ。

怖いとか、辛いとか。

罪悪感もなかった。

全部、俺が生きる為に必要なことだったから。

生きる為なら、何をしても、誰を殺しても正当防衛だよね。

平気でそんなこと考えてた。

平気でそんなこと考えながら、俺は人を殺し続けたよ。

『アメノミコト』に入る前から、俺は人を殺すのが仕事だったんだ。

両親がいなくなってから、完全に一人で生きていかなきゃならなくなって。

その為には、奪うしかなくて。

だから奪った。殺して、奪って、また殺して…。

一年くらい、そうやって暮らしてるうちに。

ある日いきなり、『アメノミコト』の構成員の一人に、声をかけられた。

何処からか、俺の噂が流れてたんだろうね。

子供の顔した、悪魔みたいな殺し屋がいるって。

一も二もなく頷いたよ。

だって、組織に所属すれば、衣食住は保証されるし。

やるべき仕事は変わらない。人を殺すだけ。

失敗すれば、自分が殺されるのは分かってたけど、それは今までと同じ。

生きる為に殺してるんだから、殺せなかったら死ぬのは当たり前だろ?

おまけに組織に入れば、これまでの適当な殺し方じゃなくて、専門的な暗殺術を教えてくれるって言うから。

これはもう運命だと思って、俺は喜んで『アメノミコト』に入った。

そういう人達の集まりだと思ってた。

暗殺者の卵を育ててるところなんだから、人を殺すことに躊躇いを覚えるような奴なんて、いないと思ってた。

でも、そうじゃなかった。

俺はあの暗殺学校に入って、初めて知ったんだ。

スカウトされて入学したのは俺だけで、他の人達は皆、売られたり捨てられたりして、無理矢理連れてこられた子供達ばかりだった。

そういう子供達は、皆感情を持っていて。

まー、あの学校で生活してれば、そんな感情は段々消えていくんだけど。

俺はそのとき、初めて知ったよ。

躊躇いなく人を殺せる自分が、異常な人間だったんだってね。
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