神殺しのクロノスタシスⅢ
サイコパスって言うんだよね。

生まれつき、他人を痛め付けることに罪悪感を感じない人のこと。

俺、多分それなんだよ。

自分がおかしい、自分が異常なんだって気づいて、自分がしたことは間違いだったのかもしれないと思い始めて。

もしかして人殺しって、悪いことだったのかもしれないって、初めて気づいて。

でも、やってしまったことはもう、取り返しつかないじゃん?

だったら、他に俺に出来ることは何?

人を殺すことしか出来ない俺に、何が出来る?

こんなクズみたいな人間が生き残って、まともな感性を持った、善良な人間が死んでいって。

こんな間違った世界で、間違った人生で、俺はどうやって自分の生きる意味を、生きる価値を見つけたら良い?

…でもね。

こんなクズみたいな人間を、必要としてくれる人がいた。

平気な顔して人を殺せる俺を、褒めて、重宝してくれる人がいた。

『八千代』、君なら分かるよね。

頭領様だけだったんだ。

頭領様だけが、俺という最低な人間に、価値を与えてくれたんだ。

俺の居場所はここしかないって思ったよ。

笑いながら人を殺せる俺は、真っ当に、陽の光の下では生きられないからね。

だったら『アメノミコト』で、唯一俺を必要としてくれる頭領様の為に、唯一俺が出来ることをやろうと思った。

だから『八千代』、君は本当に邪魔だったよ。

俺は君が大嫌いだよ。

君はまともな感性を持って人を殺してた。俺みたいに、頭領様に認められる為に殺してた訳じゃない。

魔導適性もない癖に、暗殺成功率100%で、天性の才能があって。

その癖、自分が「人殺しという悪いことをしてる」自覚があった。

それなのに、頭領様は俺よりも、君の方がお気に入りだった。

許せないだろ?

俺には暗殺しかない。頭領様に認められる以外に、生きる価値がない。

それなのに、君みたいなまともな人間に劣る扱いをされて。

だから、俺はいつか君を殺してやろうと思ってた。君を一騎討ちで殺せば、きっと頭領様も、思い直してくれると思ったから。

『八千代』なんかより、『八千歳』の方が役に立つってね。

下らない、どうでも良いことだと思ったでしょ?

でも俺にとっては。

俺にとっては、自分の命なんかより、ずっと大切なことだったんだよ。
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