神殺しのクロノスタシスⅢ
授業後。

僕は、真っ先に学院長室に向かった。

中に入ると。

「あっ!羽久(はつね)!それ私が食べようと思ってた奴!」

「はぁ?知るかよ。どうせどれも似たような味だろ」

「全然違いますぅ!」

…。

学院長とその相棒が、詰め合わせのチョコレート争奪戦をしていた。

…とりあえず。

「僕も混ぜてもらって良いですか?」

上からひょい、と指を伸ばし。

今にも学院長が摘まもうとしていたチョコレートを奪い取り、口に放り込んだ。

げ、これブランデーじゃん。苦い。

「あーっ!ナジュ君!酷い!それ美味しそうだから、楽しみにしてたのに!」

「そうなんですか?いやぁ悪いことをしましたね。最高に美味しいですよこれ」

「えぇぇ!本当に!?」

嘘です。

ブランデー味なので、多分甘党のあなたの口には、合わなかったと思う。

命拾いしたね。

でも、本当のことは教えてあげない。

「いやぁ最高の味です。もうね、舌の上でとろける味で…」

「ふぇぇぇぇん私が食べたかったぁぁぁぁ」

面白い。

すると。

「…何を下らないことをやってるんです、あなた達は」

我がイーニシュフェルト魔導学院、唯一の女性教員。

イレース・クローリアその人が、学院長室にやって来た。

「あっ、イレースちゃん!ナジュ君がね!ナジュ君が酷いんだよ!」

「何がですか」

「私の楽しみにしてたチョコレートを、勝手に横取りして、」

「あぁそうですか。それで、さっきの授業ですけど」

相変わらず容赦がない。

「相手してよイレースちゃん!」

「諦めろシルナ。お前のチョコレートのことなんて、イレースにとってはどうでも良い。そして、俺もどうでも良い」

実は僕も、どうでも良い。

それよりも。

「さっきの授業のことですけど…。やっぱり、学院長が心配してた通りですね」

「…!」

チョコレートを食べる手を止め。

シルナ・エインリーは、険しい顔をして眉をひそめた。

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