神殺しのクロノスタシスⅢ
「ナジュ君!」

「まだ立っちゃ駄目だよ!」

シルナと天音が、慌てて駆け寄った。

「身体は治したけど、まだ毒は抜けてないんだから!」

「そうだよ。それに、失血も酷かったんだから。魔力の消費も。まだそこまで回復してないでしょ」

肉体の再生は容易でも。

身体の「中身」までは、そう簡単には回復しない。

あまりにも安易に自分を盾にするから、今まではあまり気にしてなかったが。

不死身とはいえ、あらゆる身体的苦痛を感じない訳ではないのだ。

ナジュ…。

「大丈夫です…。僕不死身ですし…」

…何、強がってやがる。

「医務室から、担架を持ってきます」

イレースが、学院長室を出て医務室に向かった。

「お願い」

「そんな、大袈裟な…。このくらい別に…」

「青い顔して、何言ってやがる」

今度強がったら、雷魔法打ち込んで気絶させてやる。

「…ナジュさんは、しばらく医務室で預かります。体内に残ってる毒を解毒しなきゃいけませんから。出来るだけ急ぎますけど、魔力の回復も含めて、数日かかるかもしれません」

「分かった。お願いね、天音君」

「えー。大丈夫ですよ…。一日くらい寝てたら…。それに、授業だってあるし…」

…この野郎。

「病人は黙って、大人しく寝てろ」

マジで気絶させるぞ。

「ナジュ君。授業の割り振りは、こっちでするから」

「そうだ。シルナなんて、いくらでも分身出せるんだから」

「だけど…実技授業とか…」

「その辺も、数日くらい俺とイレースで代わる。良いからお前は寝てろ」

そこに、イレースが担架を持って戻ってきた。

「持ってきました」

「よし、じゃあ乗せようか。ちょっと動かすねナジュ君」

「乗りますよ、自分で…」

「殴るぞお前」

「…過激…」

何とでも言え。

シルナと協力して、ナジュの身体を持ち上げて担架に乗せると。

予想以上にナジュの身体が軽くて、一人でも簡単に担げそうだった。

見た目は取り繕っているものの、「中身」は修復出来てない、何よりの証拠だ。

こんな状態で、こいつは…。

おまけに。

「…」

「…!ナジュ!おい、大丈夫か?」

担架に乗せるなり、ナジュは目を閉じてしまった。

まさか死…いや、不死身なんだっけこいつ。

「意識を失っただけだよ、大丈夫」

と、天音。

…まさか、気絶させるまでもなく自分から意識を失うとは。

そこまで衰弱して…。

「修復した傍から、毒が身体に回り始めてる…。急いだ方が良い」

「そういうことか…」

…こんな状態になって、よくも「大丈夫」だなんて言えたもんだ。

この馬鹿。

「運ぶぞ、シルナ。そっち持て」

「うん」

俺達は、意識を失ったナジュを、医務室に連れていき。

天音に、くれぐれもナジュの傍に付き添っているよう頼んだ。

こいつのことだ。ちょっと治ったら、またすぐに動き回りかねない。

天音を見張りに立たせておけば、大丈夫だろう。
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