神殺しのクロノスタシスⅢ
『玉響』をこの手にかけ、『八千代』に特攻を仕掛けた、あの日から三日。

その日は丁度、一ヶ月の罰掃除の最終日だった。

あれから、もう一ヶ月たつんだなー。

俺には、考えることがたくさんある。

たくさんだ。

もうたくさん、って言いたくなるほどたくさんある。

冗談言ってる場合じゃないんだけど。

…何だかんだ、俺まで『アメノミコト』を裏切ってしまった。

まぁ、帰っても殺されるだけだから、裏切らざるを得なかったんだけど。

今更『八千代』を殺して帰ったって、任務に失敗しているのだから、許しが得られるはずがない。

そして、俺が頭領様…の、お気に入りになれることは、永遠にない。

もう俺は、以前の俺じゃない。

決定的なまでに、変わってしまったのだから。

自分に対する気持ち。

『八千代』に対する気持ち。

それから…。

「ふー!今日も良いお掃除したね!」

…ツキナという、この無邪気な少女に対する気持ち。

…良いお掃除したね、って。

悪いお掃除だったこと、あるの?

「ねー、ツキナさー」

「何~?」

「今日で罰掃除終わるんだけどさー。覚えてる?」

「あっ、そうか!そうだったね!」

…覚えてなかったのかよ。

じゃあ、言わなきゃ良かったな。

言わなきゃ…明日も、明後日もこうして、一緒に過ごせたのに。

「じゃあ今日でおしまいだね!お疲れ様だね!」

「うん、お疲れ様なのは良いんだけどさー」

「…?」

「罰掃除が終わったってことは、明日からは俺達、会えなくなるってことだよね?」

「何で?毎日教室で会ってるじゃない」

そうだけど。

でもそうじゃない。

「そうじゃなくて…。放課後にこうして、二人で会うことはなくなるよね、ってことなんだけど」

「そうなるね」

「俺はさー、それが嫌なんだけど」

「えっ。そんなにお掃除好きだった?」

俺はこの子に、何と言って察してもらえば良いのだろう。

察してもらうという考えが、既に駄目なのか?

もう無理か?直接言わなきゃ伝わらないのか?

…勘弁してくれよ。

俺だって、こんなの初めてなんだからさ。

さすがに、難易度が高いんだよ。

でも、言わなきゃ。

言わなきゃ、伝わらない。

「…明日からも、放課後…一緒に過ごせたら良いなーって、思ってるんだけど」

「えっ」

「ツキナはそれ…嫌?」

「すぐり君と一緒にいるのが、ってこと?」

「うん…」

嫌だ、と言われる覚悟はしている。

こんな薄汚い、汚れた人間が。

何で人並みの幸せを望めようか。

他の誰が許そうと、俺が許せない。

そんな普通の…普通の学生みたいな…。

だから、ツキナは「嫌だ」と言うべきなのだ…。

そう言ってくれたら、俺も諦めがつくから。

しかし。

「嫌じゃないよ!私すぐり君のこと好きだもん!大事なお友達だから!」

無邪気な、太陽のような笑顔で。

ツキナは相変わらず、俺を困らせるようなことばかりを言う。

…はー…。

覚悟を決めろ、と言うのか…。

…分かったよ。

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