神殺しのクロノスタシスⅢ
予想していた通りではあったが。

『八千代』は、起きて俺を待っていた。

「…『八千代』」

「来ると思ってたよ。『八千歳』」

だからだろうな。

こんな時間なのに、寝間着も着ずにベッドに腰掛けていたのは。

「なら、もう…用件は、言わなくても分かるよね?」

「うん、分かってる…行こう」

話が早くて助かる。

『八千代』は、ちゃんと「それ」を抱いて待っていた。

俺と『八千代』は、こっそりと学生寮を抜け出した。

勿論、こんな時間に学生寮から出るのは、校則違反だ。

見つかれば、またしても罰掃除かもしれない。

でも、多分。

今回ばかりは、見つかったとしても…咎められることはないと思う。

これは、必要な儀式だから。

…眠らせて、やらなきゃいけないからね。

「…何処にするの?」

「…さぁね。決めてないけど…。学院の敷地内が良い。学院の中なら何処でも良い」

「何で?」

「聞かないでよ。分かってる癖にさー…」

「…そうだね」

安息の場所だからだよ。

故郷なんかより、ずっと。

それにここなら、誰に荒らされることもない。

俺や『八千代』に何かあって、守れなくなったとしても。

シルナ・エインリーを始め、イーニシュフェルト魔導学院の心優しい人々が、俺達の代わりに守ってくれる。

きっとずっと…ずっと、守ってくれる。

この温かい場所で。

そうしたら…『彼』も、安心だろう。

「…『玉響』」

『八千代』の腕に、抱き抱えられているもの。

それは、他でもない俺が殺した『玉響』の遺骨だった。
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