神殺しのクロノスタシスⅢ
「僕が…イーニシュフェルト魔導学院の教師に?」

「うん。どうかな?」

最初にシルナがそう持ちかけたとき、天音は困惑の色を隠せないようだった。

それもそうだろう。

折角、正式に聖魔騎士団魔導部隊に入隊したばかりだったのに。

今度は、学校の先生やらない?だからな。

「でも僕…。生徒に教えられることなんて、何もないですよ?得意なのは、精々回復魔法くらいで…」

…謙遜も、過ぎれば嫌みだな。

俺だって、長年イーニシュフェルトで教師やってるが。

まともに教えられるのは、時魔法の授業くらいだぞ。

「その回復魔法を教えてもらいたいんだよ」

「でも…。回復魔法なら、シルナ学院長の方が適しているのでは?」

一応シルナも、天音並みに回復魔法は得意だからな。

しかし。

「それからね、天音君には、養護教員も担当して欲しいんだ」

「養護教員…?」

「保健室の先生ってこと」

今まで、イーニシュフェルトには養護教員はいなかった。

所謂保健室の先生って奴だ。

今までは、シルナの分身が担当していたが。

…状況が殺伐としてきている今、医務室の先生がシルナ分身では、やや頼りない。

本物の回復魔法専門魔導師が常駐してくれた方が、都合が良い。

そこで白羽の矢が立ったのが、天音である。

「どうかな。一応、聖魔騎士団魔導部隊に籍は置いて、そこから派遣されてきたって形で。あ、シュニィちゃんにも、ちゃんと許可はもらったから」

最近、産休明けしたシュニィに、である。

シュニィも事情を知っているだけに、快く許可を出してくれた。

勿論、天音が納得すれば、の話ではあるが。

「…やっぱり、先日の…『アメノミコト』との件ですか?」

…敢えて、言わないようにしていたが。

天音の方から、声をひそめて尋ねられた。

…まぁ、そうなるよな。

状況からしても、この時期に教師の増員なんて。

他に理由なんてない。

「…そうだね」

シルナもまた、隠すことなく頷いた。

言わなくても分かる。

先日、黒月令月という一人の生徒を巡って、学院で修羅場が起きたことは、記憶に新しい。

しかもあれはまだ、『アメノミコト』でも下っ端の暗殺者だったそうじゃないか。

つまり、奴らは、あれより上の暗殺者を抱えている訳だ。

そいつらが、学院に攻め入ってきたら…。

…正直、今の教員の戦力だけで、対応しきれる自信がない。

恥ずかしながらな。

だから、戦力増強…主に生徒の守りを…強化する為に。

天音に、声をかけさせてもらったのだ。

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